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勇者レストラン~魔王討伐して、やることないのでレストランを開きました~  作者: 鏡石錬
1章グフィーラ王国・古都

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42食目、魔王の娘と回鍋肉

 ルーシーが仕事を一通り覚えてきた頃の夜。

 宿泊以外のお客様が退けて、もうそろそろ暖簾を下ろそうとした時に一人のお客様が突然飛び込んで来た。


「ハァハァ、やっと………やっと勇者がやってる………という店に━━━」


「あの~、もう今日は閉店なのですが━━━」


「やっと着いたのじゃ………バタンキュ~」


「お、おい大丈夫か!」


「お━━━す━━━た」


 突然のお客様は入店した途端に全部の力を使い果たした風に意識を手放した。いや、微かに声というか音が聞こえる。

 カズトは静かに耳を傾ける。そうすると微かな声が聞こえてきた。「お、お腹空いたぁ~」と聞こえ、ふと笑いが混み上がってくるが、取り敢えずはこのお客様をテーブル席へと運んだ。

 カズトは、仕方がないともう火を落とした厨房に再び火を着け調理を開始する。作る料理は、お客様の特徴から瞬時にメニューを考えつく。

 今、目を回してるお客様は外見から恐らくだが………魔族だとカズトは推測する。魔族の外見的特徴として頭から魔力の強さに比例して角の本数が増え生えている。

 今現在テーブルに伏してる魔族は頭に四本角が生えてる。カズトの経験から察して相当強い魔力をお持ちだ。

 魔族は種族の中で唯一人間の敵とされる種族だ。その理由が魔王の存在にある。魔王の存在事態が魔族と人間との間に戦争を助長していたと研究している魔法使いが提言してる。

 まぁ人間と魔族との歴史には興味が全くないカズトにとっては人間と魔族の仲なんてちっとも気にならず、些細な事に過ぎない。

 目の前の客に飯を出して満足させる事しか興味がない。あっ………もう一つだけあった。それは未知な食材と料理の追及だ。


「魔族は確か辛い物が好きと聞いた事があるような無いような」


 それはさておき、アグドに来てからの記憶を総動員して魔族との記録を思い出そうとする。一回だけ聞いた事がある。魔族が好きな料理を。曖昧な記憶を手かがりに調理を進めていく。


 中華鍋を豪快に振り回し食材が宙を舞う。お玉で次から次へと調味料香辛料を投入していく。中華鍋で舞ってる食材を見ると、白くて四角い物体が複数ある様に見える。

 それは日本人にとって身近な食材で嫌いな人なんて極少数だろう。これ単体でも食べれるが多くの加工品にも加工されてる食材、それは━━━豆腐だ。

 細かくサイコロ状に切った豆腐に様々な香辛料を加え炒める料理と言ったら一つしかない。そう、麻婆豆腐だ。最後に水溶き片栗粉を回し掛け僅かにトロミをつけたら完成だ。



 クンクン

「何か良い匂いがする」


 麻婆豆腐の匂いに釣られダルそうな体をノソリと起き上がり、周囲をキョロキョロと見渡す。


「おっ?ちょうど起きたか。ほれ、腹が減ってるだろ?」


 魔族の目の前に皿を置きレンゲを渡す。目の前の麻婆豆腐に目がくぎ付けになってる魔族はカズトからレンゲを奪い無我夢中で口の中に掻き込む。


「ハフハフ、何だこれは!ピリリと辛さの後から旨さが追い掛けてくる。何ともクセになる味なのじゃ」


 あっという間に皿は空になり、レンゲをカランと皿の上へ放り投げる。魔族の胃袋を鷲掴み成功したと判断し、カズトは心の中でヨシッとガッツポーズをする。


「お代わりなのじゃ。早よう、もっと食わせろ」


「そう来ると思って持ってきてある。他のも試してみないか?これなんかどうだ?」


 テーブルに置いたのは、豚肉と野菜の豆板醤炒め所謂、回鍋肉ホイコーローだ。鍋を回転するよう炒める様子から名付けられた料理である。

 だが、普通の回鍋肉ではない。普通日本での中華料理店で食べれる回鍋肉は日本人の口に合うよう辛くない。

 本場中国の回鍋肉は違う。大量に豆板醤をこれでもかって位に入れ作る。本場中国でも四川料理に分類され、"四川人は辛さを恐れない"という中国の諺みたいな言葉があり相当辛い事請け合いだ。


「野菜は苦手なのだが………」


「良いから食べてみろって世界が変わるかもよ?」


 箸と、もし使えなくても良いようにフォークも渡して置く。


「もし、不味かったら許さんからな」


 フォークを片手に一口パクりと食べた。少し間が開き、カズトが「不味かったかな」と思い始めた瞬間、魔族は皿を片手に持ち掻き込み始めた。そして、ものの数分で皿は空になり新品同様キレイになっていた。


「野菜など不味いと思ってたが悪くないのぅ」


「そう言っておきながら皿は空ですけど」


「ふん、旨かったと言えば良かろ。旨いと言えば」


 文句を垂れ流しながらふんぞり返る魔族。だが、カズトの攻撃はこれで終わりではない。


「後、これもあるのだが━━━」


 カズトが手にしてる皿を見るやいなや奪い取り口の中に放り込み満足そうな顔で椅子の背凭れに寄り掛かる。


「さてと、それで………()()()()がこんなとろこまで何しに来たんだ」


 カズトの言葉にビクッと顔が強張り、魔王の娘と呼ばれた魔族は近くにあるフォークをカズトに向けて投げつける。

 しかし、白刃止めならぬフォークを指先で挟んで止められた。自分を殺そうと刃物を投げてきても、それでも微笑みを中断しない。自分の城にいる時は常に笑顔をモットーとしてレストランを開業してから決めてる事の一つだ。


「ハァハァ、な、何で分かったのじゃ!妾が魔王の娘だと」


「だって、魔王と似てる魔力をしてたから。確証は無かったけど、当たってて俺自身ビックリした」


「なっ!それじゃぁ、妾自ら正体をバラしたと申すのか!」


「うん、申し訳ないけど………そうなるね」


 ガーン、とショックの余り魔族━━━訂正、魔王の娘はその場で固まってる。案外、魔族って面白い感じだったりするのかな?


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