SS14-5、銃の勇者=《塔》~八王の一角:滑瓢四郎~
「この国は、8割程の住人は獣人だから獣人の国といえる。だけど、本当に仕切って支配してるのは獣人の上位種族、獣妖族と呼ばれる奴ら。8人の王も全員獣妖族」
魔法大国マーリンに来てた2人の女王も獣妖族なのか。遠目で見たが…………あれ程大和撫彦とは、あぁいう人物を指す言葉なのだろうと感じた人物は中々出会わないと思う。
「それで、俺らは何処に向かっているんだ?」
「本当なら不死鳥族か妖狐族の区画に貴族御用達の宿屋がある。だけど、そこの女王はマーリンへ行った。ケンゴ様も行った。間違いない?」
「あぁ間違いない」
不死鳥と妖狐の女王には会ったら正体がバレる。まぁ女王自ら宿屋に来る事はないだろうが、念の為だ。
「ケンゴ様を見るにニホンから来た?」
「日本を知ってるのか?」
「人妖族の区画は、過去にニホンから来た勇者が作ったと言われてる。だから、人間が住人で珍しい」
獣人の国なのに、人間が住んでるだと?!それは珍しいと、ケンゴは驚愕した。でも、広範囲だと人間も獣人と変わらないか?
「そして、滑瓢族の王は滑瓢四郎様。掴み所がないお方だが、お強い方だ。派手な攻撃はしないが、相手は何をされたのか理解出来ない…………らしい」
「らしい?」
何じゃそりゃ?意味が理解出来ない。
「ほっほほほほ、つまりはこういう事じゃな?」
突然、背後?いや、左から?違う。右から、それも違う。どこから声がしたのか分からない。
「今日も良い尻じゃのぉ」
近くで声を発せられて、やっと視認出来た。だが、ジュリの背後にいる禿げてるジジィがジュリの尻を触っている。のだが、それをジュリは気付いていない。
「爺ちゃん、また触ってるのかよ」
「お爺ちゃん!もう何回注意したら分かるの」
いや、違う。俺は何を口走ってるんだ!目の前にいるジジィ見覚えなんてある訳ないのに、ずっと昔から知ってる風に話し掛けてるんだ?
「ふぉふぉふぉ、ジュリちゃんに怒られちゃったら仕方ない。もう少し楽しみたいが、どれ解こうか」
パチン
「ケンゴ様!無事?私のしたことが。四郎様お戯れ過ぎます」
「四郎?」
それは、先程聞いた名だ。それじゃぁ、このジジィが獣妖族八王の一角にして人間から獣妖族になった一族の王!
「ふぉふぉふぉ、なーに儂の話が聞こえてな」
初めて会って実感した。
見た目は、よぼよぼな爺さんだが対面して分かる。只者でないと。
色々な強さはあると思うが、これ程に得体の知れない強さがあるとは世界は広い。
そして、背筋がゾクゾクして逆にワクワクしてる自分がいる。自分の力が何処まで通用するのか試したくなる。
「爺さんが、本当に王の1人なのか」
「ふぉふぉふぉ、儂を前にそういう態度を取れるのは、本当の強者か何も考えぬ蛮勇か?後者じゃないと良いがのぉ」
舐め腐って!ここは獣人の国であるため、王になるための素質は第1に絶対的な強さが必要だ。
それ故に、他の国からの評価は人間が住人、その上位種族である滑瓢族が収めてる区画が最弱だと見られている。
だが、それは相対してない奴の言い分だ。
「ケンゴ様、四郎様お止めください。四郎様、ケンゴ様は姫様の賓客で御座います」
「なにっ!あのじゃじゃ馬姫のか?」
コロシアムの女王をじゃじゃ馬姫と呼ぶとは、この爺さん死ぬ気か!
「姫様を、そう呼ぶのは四郎様だけです」
「ふぉふぉふぉ、あれをじゃじゃ馬姫と呼んで何が悪いんじゃ。それにじゃじゃ馬姫の賓客なら、なおさらここで無くとも良かろう。貴族御用達の宿なら鳥か狐のところが良くないか?」
滑瓢四郎が言う鳥と狐というと、あの2人の王しか思い付かない。ジュリも貴族御用達の宿屋があると言っていた。
「いえ、あのお二方に会うのは、宜しくないので」
「ほぉ、そこの賓客とやらは訳ありか」
滑瓢四郎が顎を人差し指と親指で数秒摩りながら考える素振りをする。
「あい、分かった。儂の領地にある最高の宿を使うと良かろう」
「あ、ありがとうございます」
「爺さん良いのか?」
「ケンゴ様!」
「よいよい、鳥と狐に話すよりもこちらの方が面白そうじゃ。それと、後々じゃじゃ馬姫のところにお邪魔するかのぉ。それじゃぁのぉ。また会う事になるじゃろう。ふぉふぉふぉ」
まるで台風が過ぎ去った天気の如く、笑い声の後いつの間にか滑瓢四郎の消えており、それと同時に顔と声が思い出せなくなっていた。




