267食目、剣が魔法を使う
カズトの掌に張り付いた紙から炎が勢い良く螺旋状に吹き出た。カズトにとって、本当なら使いたくなかった。
相手から切り取った魔法は、ステータスや技術と違い1回限りで使い捨てのため使いたくなかった。
その使い捨てた魔法は、後で元の持ち主に戻って行くようだ。
だが、仕方ない。今はそんな事を言ってる場合ではない。あちらも本気を出して来たという事は、こちらも本気で挑まないと殺られる。
「どうだ?驚いたか?」
「勇者が魔法を?!聞いた話では勇者は魔法を使用出来ないはず」
不意打ちに放ったが、魔法剣のムチを自分の前で回す様にガードされた。まぁ元々そう簡単に当たるとは思ってない。
魔法剣でリードされてるこの状況を、どうにか止めたかった。
「正確には少しは使える」
が、微級しかまともに使えない。実戦では、まず無理。
「プッ、それもそうだった。微級なら使えるんだったな」
笑われた!最早、ネタ扱いだろう。
「なら、これならどうだ。水魔法【泡爆弾】」
スピードはないが、さっきの【火炎旋風】よりも範囲はある。
掌に張り付いた紙からシャボン玉みたいな泡が無数に出て宙を彷徨い、動きを阻害する程に周囲を埋め尽くす。
「こんなもの」
「あっ」
ドカーン
《世界》の肘に当たったシャボン玉が割れ、その瞬間に耳を抑えたくなる程の爆発音と衝撃が《世界》を襲う。
炎なら兎も角、衝撃ならムチでも防ぎようがあるまい。本来の威力は癇癪玉ほどだが、勇者の魔力によって強化された【泡爆弾】は、大木を抉り倒すほどのエグい威力になっている。
「グハッ」
それに連鎖的に1つが破裂すると、近くにあった爆弾に引火するように次々と破裂して、こちらにも衝撃が飛び火するのかではないかとヒヤヒヤした。
「だ、大丈夫か?」
敵なのに、つい心配してしまう。ここまでの威力は想定外だ。いくら残機11個あっても心配してしまうダメージだったはずだ。
「ハァハァ、そなたに心配されなくても大丈夫」
いやいや、大丈夫じゃねぇだろ。右腕は吹き飛び、内蔵はズタボロなようで吐血してる。本来なら即死してもおかしくないレベル。
でも、世界の効果で吹き飛んだ腕と内蔵は何事も無かったかのように元通り。
「ほら、大丈夫だったでしょう」
残機はまだ11。いくら致命傷でも完璧に死んでいなければ減らないという訳か。
「別に心配はしてない。ただ、予想以上に威力がすごかったから」
「ふむ、やはり魔法を普段から使ってない様子だな。と、なれば…………その剣の能力か」
まぁ分かってしまうよね。自分の魔法で驚くバカは魔導師にはいない。余程の素人でなければ。
俺もここまでの威力が出るとは思いもしなかったんだ。何故なら、キャンサーに【貯蔵】されている魔法を使うのは初めてだったのだ。
溜まりに貯まって、どれ位あるのか自分でも把握していない。それでも使い切りというのが勿体無いと感じてしまう。
「そうだが、これも俺の力だ。勝つためなら何だって使うのは当たり前だ」
普段使い慣れてない魔法だって、それで勝てるなら遠慮なく使う。
「使い慣れてない力は身を滅ぼす」
「それは、お前にも言える事だ」
「ワタクシが身を滅ぼすだって?おかしな事を言う。魔法は確かに驚いたが、今追い詰めてるのはどちらかな?」
魔法を除けば、キャンサーで魔法剣のムチを受け止め逸らしてるだけで攻撃に転じる事が出来ていないと見える事だろう。
だが、それは裏を返せば《世界》の攻撃を見切ってるといえる。
「チッ、執拗い【泡爆弾】これなら容易に攻撃出来まい」
「舐められたものだ。同じ手が通じるとでも?」
態とムチで泡に触れて行く。触れた瞬間、普通のシャボン玉のように割れた。
「なにっ!ただ割れただけだと!」
「泡それぞれに適した魔力で相殺すると、ただのシャボン玉になってしまう。魔導師でも限られた者しか知らぬ事実よ」
まぁ魔法を使わない者にしたら知らなくても良い事実。にしても、あんなに泡の魔力を正確に判別出来るなんて、腐っても森精族の元女王だっただけはある。
カズトは一切合切、泡の魔力の違いなんて気がつかなかった。ただ単に泡が爆発し衝撃波を生むという事だけ知っていた。そんな対処を知る由もない。




