265食目、無敵を壊す
「無敵を壊すだと?おかしな事を言う。壊せないから無敵なのだ」
「うん、ソウダネ」
笑いを堪えて、棒読みで返事をする。まぁ実際に強力な技術なのは変わりはない。
強力な分、切り取るには時間が必要だ。相手の命が尽きるのが先か、この技術を切り取るのが先か?
「やはり速いな。だが、ワタクシもまだ速く移動出来ます」
突いた積もりが、俺の背後へ移動され頭に銃口を向けられている。
「ふむ、この世界は《世界》のステータスも上げるのか」
「だから、最初から無敵になると言ってるでしょう」
バン
「そう簡単に無敵と言わない方が良い」
【空間切り】…………本来空間を切り取り相手の四肢をあらぬ方向へと捻じ曲げたり吸い込む技だが、今回は銃弾を回避するのに使用した。
空間を切ると、そこに空気が流れ込む。それを利用して銃弾を逸らした。
バンバン
「何故、当たらぬ」
銃弾自ら空間の裂け目へと吸い込まれた。本来なら《世界》にも空間の裂け目は見えただろう。
だが、切り札といえるこの世界の維持に力を集中してるため見えていない。
「そんな強い言葉を使うと弱く見えるぞ」
銃弾が避けてくれるから、ただ前へ突き進めば良い。そして、横を通り過ぎる時にでもキャンサーの刃を突き刺してあごれば、《世界》の身体は真っ二つになる。
だが、【無敵世界】により上半身と下半身はくっつき起き上がった。
「さぁ後、11回だ」
【鑑定】でも残り11と出てる。間違いない。
「一瞬、意識が飛んだがワタクシは無事。やはり無敵だ」
「何処が無敵だ?全然使いこなせていないじゃないか」
【無敵世界】によるステータス上昇が身体に馴染んでないように見える。
まるでスーパーコンピューター並の高性能なプログラムが型落ちのパソコンに入っているかのようなチグハグさだ。
「うるさいうるさい。無敵だったら無敵なんだ。【無限転移】」
消えた。転移の要である魔力の道は全て断ち切ったはず。だが、実行出来てる。
「これでも喰らいなさい【鉄弾霰】」
何処からか声は聞こえるが姿はない。その代わり空間に無数の穴が空いている。そこから銃弾が一斉に発射された。
「またこれですか。懲りない人………いや、森精族ですね」
全部防がれ反撃された事を、もう忘れてるのか?それとも何か別の策があるというのか?
「これは!」
タダの弾ではなかった。分裂弾と言えばいいか、何かに当たったり切りつけられたら1個が2個に、2個が4個へ倍に増えていく。
理論上、無数に増加していく。それに追尾機能も付与されてるようで、弾同士で着弾するか俺を狙ってきてる。
減速する様子はなく、無限に増える弾と鬼ごっこは、マジ勘弁だ。
だが、嬉しい誤算もある。弾1つ1つにも技術が付与されており、切り取る事が可能みたいだ。
飛び交ってる銃弾に付与されてる技術は2つ。
1つ目は【無限増殖】…………【分裂】と勘違いしていたが、文字通りに無限に増えて行く。圧倒的物量で敵を倒せる技術だ。
【分裂】は分かれる度に質量が半分ずつ減って行くが【無限増殖】は質量をそのままに増える。永遠にだ。
2つ目は【無限追尾】……………こちらも一生相手を追い続ける技術だ。魔導師やスナイパーがノドから手が出る程に欲しがる代物だ。
どんなに離れていても敵に狙いを定めば、けしてハズレない。
そんなチート技術を前にして、俺が手を出さない選択肢なんて存在しない。
「こんなところで無限シリーズの技術を目にするとは思いもしなかった。それも2つも」
無限シリーズ…………名称に無限と付いた技術の総称。カズトの仲間であるミミも無限シリーズの1つ【無限魔力】を所持してる。
「全部頂いてやるぜ【切取】」
技術を切り取られた銃弾は失速し、ただの鉄の弾へと変貌した。
「なっ!一体何をしたぁ!」
《世界》には理解出来ないだろう。カズトが双剣で銃弾を弾いてるどころか、何も無い宙に向かって振っている風にしか見えてなかったのだから。
「ありがとよ。こんなにお宝を頂いちゃって」
手元には、【無限増殖】と【無限追尾】の紙が数百枚握られている。これを【貯蔵】に入れて、ウハウハだ。
「何を言ってる?それよりも何をした!質問に答えろ」
「嫌だね。言っても理解出来ないと思うし、ヒントとしては、このキャンサーの能力だ」
「聖剣の能力だと!」
ウソは言ってない。けど、全部は言ってない。




