264食目、切取&貼付
そして、切り取ったステータスや魔法・技術は、キャンサーの3つ目の技術である【貯蔵】にて溜め込む事も可能。
ここに過去、切り取ったものが保存されてある。あるが、デメリットもある。
分部相応の力は身を破滅すると言われるように自分で持てる以上のステータスを【貼付】すると身体に負担が掛かる。
まぁそれは一般的な話、勇者である俺は戦ってる間だけならリスク無しで、いくつも貼れる。
「時間が切れたから何だと言うんだ?ただ、切れ味の良い剣というだけではないか」
よっぽど動揺してるのか?時間が切れただけって、それも相当ヤバいと思うのだが。
「そう思っているなら結構。今からお前自身味わう事になるんだから」
キャンサーから取り出したステータスは、カズトから見たらペラペラな紙に文字と数字の羅列が書いてあるように見える。
だが、相手側からではペラペラな紙は見えずにカズトが変な動作をしてる風に見える。
「ふむ、こんなところか」
貼り付けた紙は、身体の中に解けるようにスゥーと消えていった。速度のみを幾重にも貼り付け、俊敏さが貼る前と比べると数倍に上昇している。
うん、身体が軽くなったも実感が湧いてくる。さてと、俺の速度に着いて来れるかな?
「では、行くぞ」
トンと右足のつま先で軽く地面を叩くと、《世界》を1回通り過ぎ、死角からの背後から切り付ける。
「ふむ、中々速いな」
「なにっ!」
切り付けた《世界》は霧が晴れるように消えてなくなった。
「これは幻覚?いや、そんな生易しいものじゃない」
油断はしてなかったはずだが、また閉じ込められてる感覚がある。いつだ?どうやって閉じ込めたんだ?そんな素振り一切無かったのに。
「舐めてるから引っ掛かるのよ。【罠転移】分身を切り付ける事をトリガーに転移させたの」
そんな単純な罠に引っ掛かるとは!絶対ではないが、【危険感知】や【罠感知】が発動しなかった。
「ワタクシを誰だと思ってるの?《世界》であり、森精族の元女王よ。そんな感知を簡単に掻い潜れないようじゃ、今の立場はないわ」
転移させられたのは本当だろう。だが、そこまで遠くまで移動はしていない。それどころか、この地下宮殿から移動していない。
でも、地下宮殿とは違う空気が充満している。
「こんな短時間で、こんな大掛かりな罠を仕掛けるとは。お前を倒せば、ここから出られるのか?」
「倒す事の出来たらの話。それが世界から出る常識よ。でも、それも叶わぬ願い。何故なら、この世界の中では、ワタクシは無敵なのだから」
そう断言するとは、余程この世界に自身があるのだろう。だてに《世界》を名乗っていない。
「この【無敵世界】にいる限り、ワタクシを倒す事は不可能」
「ヘラクレス?」
どんな物でも弱点は存在する。そうそう無敵とか最強は存在しない。
カズトは、ヘラクレスと聞いてピンと閃いた。この世界は、ただ単に耐久力が高いだけで無敵でも何でもない事に。
ボソッ
「【鑑定】…………やっぱりそうだ」
カズトは、こっそりと【無敵世界】に【鑑定】を掛けた。
《世界》に12個の命が付与されている。【無敵世界】の正体は、使用者に12個の命を与える世界。神話のヘラクレスが12の試練に挑戦する事になぞらえてるのだろう。
だが、《世界》の様子から察するに、その事を知らない様に見える。
たまに自分で使用した技にも関わらず知らない効果がある事がある。いわゆる隠し効果だったり、違う効果だと思い込んだりしてしまう。
おそらく後者、12個の命を得る効果から無敵になる効果だと思い込んでいる。だが、それは好都合だ。無敵から12個分の命へランクダウンしたのと同義。
それらを刈り取れば、ここから出られる。それに普通ならば敵側も何らかのデバフを強いられるものなのだが、それもない。
「その無敵とやらを壊して、ここから出ますか」
知ったところで、敢えて伝えない。後々知った方が、その顔が絶望に染まるか慌てて世界を解除するかのどっちかだ。
それに本当に無敵効果だったとしてもキャンサーの前では問題無かった。その無敵を切り取ってしまえば、無効化出来た分、残念で仕方ない。




