258食目、スサノオが子供に
「なぁ、スサノオ。その姿で、その口調どうにかならないか。なんか違和感がありまくりで」
『良いではないか!変身するにも疲れるのだぞ』
「だからって、何で子供の姿にいつもなるんだ」
姿が男の子で中身がオッサンって誰得なんだ?まだ女の子の方が誰得感はあった。
『うるさいわい。良いだろ、別に。この姿の方が楽なのじゃ』
「ぷっ、スサノオ。なんですか?!その姿は」
『お前には初めて見せたのぉ。上位の龍種は人の姿になれるのじゃよ。最近の輩は、龍人種と呼んでるらしいがのぉ』
それは初めて聞いた。でも、《世界》は、そんな事を聞いてるんじゃないと思う。
『さてと続きと洒落こもうぞ。勇者よ、これを渡しとく。久し振りじゃろうが、お主なら上手く使いこなすじゃろう』
人化したスサノオが、パシッと背中を叩くと力が湧き上がる感触と身体の表面に風の膜を纏った感じだ。
「これは!【風龍王の加護】とういうやつか」
本当に助かった。スサノオを顕現させてしまった影響で聖剣は手元にないのだ。
【風龍王の加護】とは、スサノオと同じ体質と身体能力を身に付けるというのに等しくなる。
『おぅよ。その感覚、久し振りじゃろ?』
あぁ、何だかワクワクしてきた。これで、どんな相手にも負ける気がしない。
「ただ風を纏った風にしか見えませんが?」
「甘く見てると…………怪我だけじゃ済まないぜ」
「なっ!いつの間に後ろへ!」
《世界》が瞬きした瞬間、俺は駆け抜け背後へ回った。
【風龍王の加護】を借りた前ならこんな芸当は不可能ではないが気付かれていた。
スサノオの体質である『何事も切り裂く身体』なら気づかれないで近付ける。
何事にも例外はあるが、カズトが切り裂いたのは《世界》に感知される事実を切り裂き、俺という存在を一瞬悟れないようにしたまでのこと。
「動揺したのか?遅い」
「くっ!」
脇腹に思いっきり回し蹴りをクリーンヒットさせ、スサノオを通り過ぎ反対側の壁まで吹き飛んだ。
「ワタクシで無かったら死んでいたところです」
土煙から人影がユラユラと立ち上がる。
「チッ…………流石はあのバカ姉が選んだだけはある。無傷とか…………ちょっとショックだ」
「いえいえ、流石に効きましたよ。【風龍王の加護】が加わった一撃はどれも必殺になり得ますから」
蹴られた瞬間、内心では焦っていた。何故なら、意識が飛んでいたら本当に死んでいた。
本来なら脇腹が抉られ内臓数箇所が破裂していた程の威力はあった。
だが、《世界》の技術の1つ【何も無かった世界】により蹴られた事実を無かった事にした。
その結果、蹴られて出来るはずのキズも元々無かった事に出来る。
『ふん、精霊は使わんし、まるで森精族よりも魔族みたいだぞ』
「我が主から貰った力を魔族だとほざくなら久し振り会った師匠でも本当に殺しますよ?」
殺気と殺気のぶつかり合いで大気が震える。何の力を持たない一般民なら昏倒している。
いや、後ろの隅っこで待機してるドンは泡を噴いて気絶している。
「スサノオ、それは言い過ぎだ」
『勇者?』
「流石、我が主の弟なだけあります。今からでも遅くありません。ワタクシと一緒に来ませんか?」
はっ?何を言っているんだ?今、戦ってる相手に対して仲間になれって天才に見えて実はバカなんじゃないか?
「いや、それは断る。言い過ぎだと言ったのは、お前の事じゃない。バカ姉が集めたメンバーは、ほぼクズの集まりに決まっている。だから、お前を魔族と呼ぶ事は魔族に悪いと思ってね」
魔族も世界共通の敵だが、それよりも厄介なのが魔神教会だ。表的に魔神を祀る宗教にすぎないだけに国が教会の閉鎖を決定すれば信者による暴動が勃発する。その人数は、その国の4割は在籍してるという。
裏的には犯罪組織のはずなのに証拠が一切出てこないから国も手が出せずにいる。それに本拠地が何処にあるかも不明なのだ。
教会自体は表的な仮の拠点にすぎないが、ほとんどの信者は犯罪組織だと知らない。知らずに犯罪に手を染めてる事も屡々ある。
そんな輩の仲間になるなんて更々ない。むしろ、俺や仲間に危害が及ぼうなら全力で阻止するまでだ。




