257食目、《世界》はスサノオの1番弟子!
『勇者よ、本当にアレが敵なのだな』
「あぁ間違いない。魔神教会という怪しげな組織の一員らしいからな」
『魔神教会だと!』
カズトが魔神教会を口にした途端、スサノオの表情が強ばった気がする。
「スサノオ、魔神教会を知ってるの?」
『知ってるも何も龍人族と長年争って来た組織よ。龍の渓国ドライアーに眠る【魔神の右足】を護るためにな』
龍の国には【魔神の右足】が封印されてるのか。
「流石、龍の身体を持つ種族。お強いお強い、ワタクシでも苦戦を免れませんし、流石に2人を相手するのは分が悪い。ここは逃げさせて貰いましょう。目的の物は手に入れましたし」
《世界》が、背中を向け転移する穴を開き逃げようとする寸前であった。
「させるか!スサノオ」
『おぉ任せろ』
~ソコを動くな~
スサノオが遠吠えを発すると、それが言葉になって聞こえて来る。それを聞いた《世界》が、ビクッと身体が硬直した。
そして、スサノオが両翼で羽ばたくと、真空の刃が転移の穴に向かって飛んで行き切り裂いた。
「スサノオ、貴様やりましたわね」
『ほぉ、もう硬直を解けたか。それに、素のお前の方が好感持てるぞ』
ビキッ
「殺すのは辞めた。四肢をもいで、生きたまま亜空間で瓶詰めに致しましょう」
めちゃくちゃ怒っている。ここに入って来た時よりも殺気が目に見えるくらいに濃く溢れて、チクチク痛く感じる。
『ほぉ、小童もエラくなったものだ。ワシをどうすると?最近、耳が遠くなってのぉ。聞こえんかったわい。ほれ、もう1回言うてみぃ』
うわぁ、煽ってる。あちらもスサノオの煽りで眉間に血管が浮き出てる。
「あれから、千年……………身体は兎も角、頭の方はバカになったようですね。そんな単純な誘いに乗るとでも?」
そうは言うが《世界》は、キレてる。キレてるが冷静だ。銃を正面ではなく両腕を目一杯広げるように真横へ向けた。
「これを初見で避けられるかしら?」
何処を撃ったのか?俺らがいる方向とは明後日の方向へ十数発、二丁拳銃から弾が発射された。
『何処を撃ってるのだ?』
「いや、待て!来るぞ」
発射された弾は、遠目からでは目に見えない程に小さい転移の穴に吸い込まれ、同じ穴がカズトとスサノオの首筋数cm後方に出現し、そこから弾が排出された。
「ふん、呆気なかったわね」
「いや、生きてるぞ」
「あの至近距離でどうやって?!」
どんな強者でも、あの距離での弾丸は避けられるはずがない。
「ありがとな。スサノオ」
『勇者が死ねば、あの美味は一生味わえないのだから助けるのは当たり前だ』
「話を聞きなさい」
「うるさいなぁ。来る所が分かっていれば防ぐ事は容易ってことだ」
後はスサノオに風の障壁を張って貰うだけだ。スサノオは、今は聖剣の1部。カズトの考える事なんかインターバル無く頭内に伝播される。念話よりも早い。
その逆も然り、それでスサノオに弾が来る軌道上に障壁を張って貰っただけ。
カズトが素手で取っても良かったが、あの至近距離では間に合わない。
「それにしてもスサノオの壁は相変わらず硬いなぁ。それにピンポイントと来てる」
『お褒めに預かり恐悦至極。勇者も、これくらいは出来ましょう』
「ワタクシの弾を1つや2つ防いだだけで呑気なものですね。まぁ【転移連結】を初見で防いだ事だけは褒めてあげましょう」
褒めても嬉しくない。一流の剣士や武闘家は相手の視線や筋肉の動きで次の一手を先読み出来るものだ。
それに殺気が、ダダ漏れで防いで下さいと言ってる様なものだ。
「これならどう防ぐのかしら?」
弾が飛んで来る軌道は同じ。いや、何かが違う。
「スサノオ」
『分かってる』
防ぐではなく、回避を選択した。この弾は防げない。防いだら胴体と頭がサヨナラしていた。
「貫通弾と言ったら良いか。そんな弾までも開発してたなんて」
「先程の障壁程度なら楽々貫通出来る代物よ。良く分かったじゃない」
分かった訳じゃない。勇者の勘というやつだ。勘をバカにするやつは多けれど、一流の勘を侮ってはいけない。
勘も極めれば、それは未来予知に近い精度を誇る。だが、そうそう的中する訳でもない。
「ただの勘だ。ヤバいと思ってな」
『グッハハハハ、その勘にワシも助かった訳だ。誇っていいぞ』
「スサノオが居なかったら、まず避けられ無かったからな。久しぶりに見たが、その姿の方が良いと思うぞ」
カズトの隣に立っていたのは、スサノオと呼ばれていたバカでかいドラゴンではなく、齢10歳くらいの少年であった。




