255食目、《世界》と二丁の拳銃
ギリっと摺り足のように右足を進めた途端、足元に地面を抉る音がしたと思ったら小さな穴が地面に開いていた。
「そこを動かないことね」
《世界》の手には、この世界には不釣り合いな2丁の銃が握られていた。
片方の銃からは撃ったのだろう。微かに煙が昇ってる。
「まるでケンゴのようだ」
「銃の勇者か。ふっ、銃の勇者も我が主の元で懸命に働いてるわね」
ルリ姉の事で頭がいっぱいで、ケンゴの事は忘れていた。スマン、ケンゴ。心の奥底で謝った。
まぁケンゴなら大丈夫だろう。それよりも気になっているのが《世界》が持ってる銃だ。
「薄暗くて分かり難いが、その銃に見覚えが…………」
何処だったか?確か、ここに来る前…………そう、スゥに渡された。
主に王都や古都で手広くやっている商会の1つ、ブローレ商会の地下工場で作られていた銃の一丁だ。
だが、今やその工場を含めブローレ商会本店と支店全てが謎の消失で未だに捜査中のが表向きに発表されてる事実。
だが、本当の事実はブローレ商会会長ブラン・ブローレの右腕であるジョルというのは仮の姿、本当の姿は魔神教会No10《運命の輪》がブローレ商会を壊滅に追いやった犯人である。
「そうだ、この銃とそっくりだ」
「何故、お前がそれを」
カズトはアイテムボックスから一丁の銃を取り出し観察する。日本では一般的に見掛ける事はないが、
この銃に《世界》が反応したとなると、ブローレ商会本店の地下にあったという工場は、魔神教会の武器工場だったのか。
「あぁこれか?俺の仲間がくれたものだ」
「ふざけるでない。その銃は、ブローレ商会で作られていたものだ」
「なら、そのブローレ商会とやらから俺の仲間が購入したんじゃないのか?」
本当は、こっそりと盗んだらしいけど、こんな物が世に出たら大変な事になる事は目に見えてる。誰だって前戦に出れる様な兵隊になれてしまう。
それは大人・子供関係ない。
「それを返して貰おうか」
「それを渡してくれるならな」
カズトは、《世界》が持つ【魔神の左手】を指しご所望する。
「ぷっわっハハハハ、そうきたか」
《世界》のツボに入ったらしく、どうやらカズトの技術である【笑いのツボ】が勝手に発動してしまったらしい。
「グッハハハハ、く…………くるしい」
「何気に効いてる?」
「今の内に【魔神の左手】を奪取出来るのでは?」
《世界》は、膝をつき腹を両腕で抱え笑い転げてる。
攻撃でも防御でもデバフなのかは疑問だが、それでも役に立たないゴミ技術が、こんなところで役に立つとは。
バンッ
「ハァハァ、ワタクシを舐めるでない」
どうやら【笑いのツボ】の効力は切れたようだ。笑いから解放されたばかりなのに、前に出そうとした足元付近に正確に撃ち込んでる当たり射撃の腕は確かなものだ。
「おっと、危ない」
「良くもワタクシに無様な事をさせましたわね。万死に値する」
「まぁ待て。これは返すから、ほれ」
カズトは、右手に持ってた銃を下側から大きくソフトボールを投げる要領で弧を描くように投げた。
《世界》が、その銃を見上げ、カズトから視線を外した隙をカズトは見逃さない。
「風の聖剣スサノオ【切風乱舞】」
無数の風の刃が《世界》に向かって四方八方から避ける隙を与えず覆うように切り刻む……………はずだった。
「ワタクシは《世界》、この程度防げないと思っていたか?それ、返すぞ」
《世界》が指を鳴らすと、カズトの周囲に時空の歪みが複数出現し、そこから自分が放った風の刃が、そっくりそのままカズトへと排出された。
「どうだ?自分の技を受ける気分は」
《世界》は、【転移穴】という目に見える範囲に限られるが、転移を生じられる穴を空間に作る事が出来る。
防御が出来、相手の攻撃をそのまま送り返す事も出来、一石二鳥な魔法なのだ。
「あれくらいで殺られはしないか」
「自分の技で殺られるヤツは3流以下だ。違うか?」
「確かにその通りだ」
とても強力な技術や魔法を作って、それだけで終わるのは3流。それを防ぐ事が出来、可能ならば他の者にも使える様にして2流。それを更に応用・発展する事が出来て1流だと、カズトは考える。




