253食目、神樹の地下
ドンと一緒に階段を降って行くと、出入口から漏れる明かりが徐々に小さく暗くなって行き足元を確認しづらくなってきた。
「これの出番ですね。懐中電灯を点けてと」
アイテムボックスから懐中電灯を付けると正面は明るく照らされ、これで難なく降りていけるというものです。
「それは魔道具なのですか?」
「えぇ少しの魔力で使える代物だ」
【異世界通販】で買った物は、全てじゃないが大抵魔道具へと変化するらしい。
懐中電灯に関しては電池要らずで、魔力で充電すれば1年は持つ。その魔力も微々たるものだ。
「ぼ、僕にも扱えますか?」
「それはもちろん」
俺の懐中電灯をドンに手渡した。まるで子供のように見るからに瞳を輝いて、暗いはずの背中にも眩い程に星が散らばっている錯覚を覚える。
「僕は精霊魔法がてんでダメでして、だから剣士になったのです」
森精族は本来精霊魔法が扱えないと迫害されるものだが、ニブル王は良い王のようで精霊魔法を扱えない森精族も見捨てない。
「先代国王から今の国王にニブル王陛下が就任されてから変わったな」
へぇー、良い方向へと変わったようで何よりだ。俺もニブル王に会った瞬間、そこらの貴族・王族とは違うと感じた。
「良かったじゃないか」
「あぁ僕は一生ニブル王陛下に着いて行く積もりだ」
どれくらい降っただろう?途中途中、螺旋階段みたく回っている影響で方向感覚は完璧に狂ってる。
ここまで一本道、迷う要素はなかったが、ここまでないと何処か不安になってくる。
人が不安になる要素は、いくつかあるがその中でも暗闇で数時間いる事と音がしない空間で同じく数時間いる事の2つは精神的に何時か病んでしまう。
「……………」
「……………」
俺とドンも口数が減り続け、今では無言で階段を降っている。ドンが懐中電灯を持ち前衛、俺が後衛を担当してるが、魔物愚かトラップ1つも見受けられない。
いくら出入口を封印され見えないようにしていても侵入者防止のためにトラップの1つでも仕掛けてあるはずだ。
それが何もないのが逆に不気味に感じて来る。それに加え、カズトとドン2人の足音だけが響き渡るのも不気味さを加速する要因となっている。
コトン
漸く、最下層に着いた。飛行機嫌いの気持ちが分かったような気がする。地面があるって最高じゃないか。こうも安堵してしまう。
「やっと着いたか」
「どうやら先があるようです」
ドンが懐中電灯で前を照らすと、横穴というよりココは遺跡に近い構造物のようだ。
加工された石が積み重なり周囲の壁・床から至るところまで人の手が加わって、明らかに自然で出来たものじゃないと分かる。
「ここが神殿?」
「えぇその様です。僕も初めて来ましたが精霊魔法を扱えない僕でさえ、認識出来る程に精霊がいます」
カズトには分からないが、魔力らしきものが周囲に漂ってるのは分かる。
「よし、先に進むか」
「はい、そうしましょう」
暗くて全貌は分からないが、相当広さがある空間だ。誰が、木の根の地下にこんな巨大な空間があると予想出来るだろうか?
流石は神樹と言ったところか。早く【魔神の左手】の所在を確認して、こんな暗くてジメジメしたところから帰りたい。
「壁際にロウソク立てがあるようです」
「ロウソクだな。ほれ、これで火を着火してくれ」
【異世界通販】でロウソク数本とチャッカマンを、ものの数秒で買い、ロウソク立てに設置、着火した。
ロウソクの明かりだけでは、やはり神殿の全貌は把握しきれないが、無いよりはマシだ。
「……………!!誰か居ます」
「…………誰だ!」
カズトは、聖剣エクスキャリバーを抜き人陰がいる方向へ剣先を向ける。
カツンカツン
「あら?ワタクシ以外にも客がいるなんて」
本来、祈りを捧げる儀式用の台座に続く階段を降りて来たのは、声からして女性。スラッとして、そこそこの身長があり、仕事一筋の女社長と言われたら納得してしまう美麗。
だが、最近何処かで会ったような気がする。
「まさか剣の勇者とまた会うなんて」
「おまえ!魔神教会の!」
「そう、《世界》よ。改めてよろしく」
何故、ここに魔神教会の幹部がいるんだ?!いや、目的は分かりきっている。前回魔法大国マーリンにて何を盗まれた?