252食目、勇者の直感
極上のキノコスープを飲んだ後は探索の続きだ。ギューとドンも疲れが吹き飛んだのか?食べる前と後では身体の動きが段違いに良くなっている。
キーン
「うん?」
キーンキーン
歩き出してる最中に何か頭に響くような…………頭痛とは違う。何か甲高い鐘のような音が響いて来る。
「………何だこれは?何か嫌な予感がする」
「剣の勇者殿どうしました?」
「何か顔色が悪いぞ」
ギューとドンが俺の顔を覗き見る。そんなに顔色が悪いのか?心配し過ぎと思う程に2人の距離が近い。2人には、この音は聞こえてないのか?
「いや、大丈夫だ。それよりも聞きたい事が出来た」
この嫌な予感が当たってないと良いのだが、ニブル王直々の依頼の中に食材の楽園の異変を探って欲しいというのに合致してならない。
それに頭に聞こえる甲高い音とは別に何かザワザワとした胸騒ぎがする。
「はい、何でしょう?」
「ここ、食材の楽園に何か重要な物を封印又は隠す場所はないか?」
俺の質問にギューとドンはお互い顔を見合わせる。ニブル王直々に俺への案内に付けてくれた2人だ。
食材の楽園の全貌を把握してなくとも国家機密な場所くらいは知ってるはずだ。
「そう、例えば魔神の身体の1部が封印されてるとか」
「どうしてそれを」
「おいっ!バカ」
「えっ?あっ!」
どうやら当たりのようだ。カマを掛けたつもりは無いが見事に口を滑らせてくれた。
1人では、この広大な食材の楽園を探すなんて、砂漠に1粒の米粒を探すと同位で不可能に近い。
「剣の勇者殿、それを教える事は剣の勇者殿でも」
「国家機密だという事は知ってる。だが、もしかしたら一考の猶予もないかもしれない」
「それはどういう」
このさっきから頭にチラつく嫌な予感が当たって欲しくないと願いたい気持ちがあるが、勇者の予感・直感は未来予知並に当たってしまう事を身を持って知っている。
「盗まれる可能性があるのだ」
「「…………!!」」
「驚く気持ちは分かる。分かるが案内して貰えないか?」
「しかし、でも」
ギューが難しい顔をして悩む。相手は勇者でも外から来た部外者だ。それにニブル王の客人、変な扱いは出来ない。
「ギュー、ここは剣の勇者殿を信じてみようじゃないか」
「ドン…………そうだな。ギューの言う通りかもしれない。よし、ご案内致します。【魔神の左手】が封印されてる神殿へ」
ギューとドンの案内によって【魔神の左手】が眠るという神殿へ急ぐ。
急ぐが、決まった道順を進まないと決して辿り着けない魔法が掛かっており、森精族でも限られた者しか入れない。
なので、どうしても時間が掛かる。
「ようやく着きました。ここです」
到着したココは巨大な木が1本あるだけだ。神樹を知ってると全然小さいが日本の寺にある御神木にするには立派な大木だ。
根元に、隠されるように地下に行く階段がある。いかに何かがあるような雰囲気を醸し出してる。
「ギュー、何かおかしいぞ」
「ドン、どうした?」
「封印の魔法陣が消えている」
ドンの話によると、封印の魔法陣により地下に続く階段はけして見えないという。
それが見えるようになっているという事は、封印が解かれ誰かが中に入ったという事になる。
「まだ封印が解かれて、そんなに時間が経っていない。これは陛下にご報告しなくては」
「待て。ギューは報告を、ドンは俺と来い。まだ侵入した犯人が中にいるなら捕まえる必要があるからな」
ここに近付く度に嫌な予感を感じる密度が強くなっていた。応援を頼む必要はあるが、待ってる時間もまたない。
「了解した。剣の勇者殿にドン、無理は禁物だ。ここに辿り着き、封印を解除してる以上、ただ者ではない」
「ギュー心配するな。お前が戻って来るまで時間は稼いでおくさ」
「俺を誰だと思ってる。剣の勇者だぞ。天地がひっくり返っても負ける事はない」
そう普通ならば勇者が負けるなんて有り得ないが、有り得るとすれば同じ勇者か、はたまた魔王並に強い強者に限る。
だが、最近そんな強者と戦ったばかりに油断をしてはならない。
「さぁドン行くぞ」
カズトとドンは封印が解かれた階段を1歩1歩降って行くのだった。




