SS1-105 帝国の三勇者~弓は身体を取り戻す~
ウッド・ゴーレムが走ってる最中、何度も雨の矢が当たりそうになるが腕で弾き無傷のままガーンディーバへ向かって行く。
《今のタクトに効かないよぉ》
弾いてる両腕に傷が付く様子はない。木の障壁を打ち破って致命傷を負わせた攻撃を、この短時間で効かなくなるものだろうか?
『ワタクシのタクトは、1回喰らった攻撃に対して耐性が出来ますの。だから、あぁやって2回目は攻められるのですのよ』
1回目は態と喰らって2回目で攻めに転じる。長期戦になったら戦いたくない相手だ。だが、そう上手く行く相手だろうか?
見た目通りに、ほぼダメージは入ってないだろう。それは認めるが、何か見落としてる事がある気がしてキメラは頭を抱える。
「なぁ、耐性が付くって言ったが、それはどれくらいなんだ?」
『言ってる意味が分かりませんわ』
「完全に無効に出来るのか?それともある程度なのか?」
耐性と言っても幅がある。前者なら完璧に負ける事はないだろう。だが、後者だった場合、徐々にダメージが蓄積したり何らかの効果が現れるかもしれない。
(あのウッド・ゴーレムはダメね)
逃げてる間は何も言って来なかったアシュリーが、ウッド・ゴーレムが突撃かまして行ったら突然と声を発した。
「っっ!(なんだ、突然)」
(だから、あのウッド・ゴーレムは殺られるって話。勇者のシリーズ系を甘く見てないかな)
天気シリーズだったか?キメラは頭に直接語りかけて来たガーンディーバの声を思い出している。
普通の技術じゃないと思ってないが、そこまでの技術じゃないとタカを括っていた。だが、頭の中のアシュリーの態度が、そうじゃないと言っている。
『そこだ、いけいけ』
《おらおらおら》
もう既に矢の嵐を掻い潜り、空中を飛び跳ねてるウッド・ゴーレムの目の前にはガーンディーバがいた。後、腕を一振すれば届く距離である。
ガキィィィィィン
《硬い》
ブンブンと力を貯め殴ったはずなのだが、ビクともせず吹っ飛びもしない。下から見詰めてる2人からでも甲高い音が聞こえたため威力は申し分もないはずだ。
(やはり効かないです)
「聖武器には【破壊不能】という魔法効果が付与されてるはず」
『それを早く言いなさい』
いや、これは有名な話だ。種族や魔物関係なしに知ってる事実。魔物は、本能的にそう世界から刷り込まれている。
『タクト、壊すのが無理なら捕まえなさい』
《捕まえるぅ》
(無理ね。もうそろそろ効いて来るはずよ)
何をと頭内でアシュリーに聞こうとするが、聞く前にその効果とやらが顕著にウッド・ゴーレムに表れた。
『何してますの?早く捕まえなさい』
《あれっ?このっ!速い》
下から見てる2人から見たらガーンディーバの速さに変化はない。変化してるのは、ウッド・ゴーレムの方だ。
ウッド・ゴーレムの動きが段々と遅く鈍くなっていく。これが、アシュリーが言っていた効果とやらか。
(雨の特性は鎮静と浄化。鎮静により動きが徐々に遅くなっていく。これは耐性で、どうにか出来るものじゃない)
アシュリーの言う通りに何も出来ずに終わりそうだ。現にウッド・ゴーレムの動きが時間経過するに連れ、目に見えて遅くなっていく。
《ガガガガっギギギギ…………ご………しゅ…………じ………ん》
油を長年挿してないロボットのようにスローモーションとなり動かなくなった。
『タクト!』
トレント・ロードが駆け寄るが、もう遅い。回復しようとするが一向に回復する兆しが見えない。
『どうなってるの?これは!ねぇ、何か知ってるのではないか?』
「いいえ、知りません」
今更、言える訳がない。言った途端に敵になるだろう。だが、逃げるなら今だ。多少なりに勇者の身体には慣れて来た。
(甘いですね)
キメラの思考をトレースしたのか?逃げようとした瞬間にアシュリーの声が響いた。
(ほら、変な動きをしたら打てる位置にいますよ)
ガーンディーバの射線が、ちょうどキメラを向けて固定されている。今、動けば確実に仕留められてしまう。
(まぁワタシの身体を取り戻すために動かなくても打ちますけどね)
「なっ!」
バキューン
一瞬だった。キメラは何も身動き出来ずに雨の矢に打たれてシャットアウトしたのであった。