SS1-104、帝国の三勇者~雨の効力~
何処か優しい青色の矢が無数の雨粒みたいに降り注ぐ。それらは、タダの矢じゃない。
雨の特性は、鎮静と浄化。全ての活動をゆっくりとし、邪なモノを殲滅する。本来ならゾンビやレイスのアンデッド系に真価を発揮する代物だ。
『武器が、勝手に技術を使うなんて!有り得ない有り得ない。どうなっているの?!』
「知る訳ないだろ」
《タクトが守るぅ。【樹盾】》
ウッド・ゴーレムが2人を包み込むように腕を変形させ、ドーム状に樹の障壁が形成された。
だが、だだの水の矢なら防げただろう。ただし、これは雨の特性を付与された魔法の矢だ。
鎮静と浄化の作用によって、自然に生えた植物ならいざ知らず魔物の力によって生み出された植物は動きが鈍くなり、まるでそこには何も無かったかのように穴が開き朽ちる。
《グハッ!》
『タクト!この良くもやってくれたわね。【種爆弾】』
「それはいけない」
ガーンディーバの上空から無数の種がばら撒かれ今にでも爆発する寸前まで膨れあがってるが、悪手であった。
ガーンディーバは向きを変え雨の矢で包み込むと、種の爆弾はゆっくりと心臓が鼓動するかのように膨らむ速度が落ち、ゆっくりとなる。
そして、爆発せずに自分らのところに落ちて来る。
「チッ、遅かったか!」
『どうなっているのですの?!』
「おい、ここから離れるぞ」
負傷したウッド・ゴーレムと放心状態のトレント・ロードを担いで、キメラは急いで、その場を後にした。
ちょうど、キメラが走り出した直後に時間が経ったらしく種の爆弾が眩い光を放ちながら爆発し出した。
「うぉぉぉぉぉぉ、一体何個作りやがったんだ」
(急げ急げ。巻き込まれるわよ)
「うるせぇよ」
多少なりにアシュリーとの会話に慣れて来たキメラは、爆発に巻き込まれないよう爆走をかましていた。
「ハァハァ、ここまで来れば大丈夫だろ」
(お疲れぇぇ)
抱えていた2人を、その場に放り投げた。まぁ命の恩人に文句は言わないだろう。
「お前の身体でもあるだろ。早く言えよ」
(イヤよ。そんな義理はないわ)
「狂ってやがる」
(あの矢はね。アンタらは死ぬけど、ワタシは元に戻るんだから、言う必要ないでしょ?)
マジかよ。
「ハァハァ、ゲホッ。もう無理、走れん」
(だらしないわね。ワタシの身体に入ってるんだから、もっとシャキっとしなさいよ)
勇者の身体だからと言って、それを上手く扱えなければ常人以下と成り下がる。
最初にガーンディーバで矢が放てなのは、ガーンディーバによる補正が掛かっていたに過ぎない。
『ここは?』
「やっと気が付いたか。気付いたなら早く逃げるぞ」
『逃げるって何から?』
「アレからだ」
休む暇もない。雨の矢を振りまきながら追って来た。元々ここには自然と生えた樹木は存在しない。
トレント・ロードが自由に操れるように作られた魔法の木々で満たされている。
その結果、雨の矢が当たった木々は次々へと枯れ、まるで生き物がいない死の大地みたく変貌していった。
『ワタクシの森が!アレは勇者の弓なのでしょ?なら、アンタが』
「いや、無理だ。あの矢に当たった瞬間、勇者に身体を返す事になる」
『どうして、そんな事分かるのよ』
キメラは言葉が詰まる。意識をアシュリーと共有してるという事を。話せば裏切りになるだろう。
「それは…………この身体が元々勇者のものだからだ。直感と言えば良いのか、頭に浮かんで来たとしか言えない」
だから、少し真実を混ぜて嘘八百で騙せば良い。自分も含めて、ここにいる3人は魔物なんだから。
騙して騙される、そんな関係がちょうど良い。そんな訳で本当の事は言わない。本当の事を言ったら殺されるのがオチだ。
今のボクには戦う術は無いに等しい。勇者の身体だが、それを引き出せるのかは別の話。今だに1割も引き出せてない感触なのだ。
『ウソではないわよね』
「誰がウソなんかつくか」
冷や汗が止まらない。いくら生みの親でも命が関われば命を取る。今、この場で1番弱いのは自分なのだから、どんな手段でも生き残ってやる。
『なら良いわ。タクト、アレを殺りなさい』
《タクト殺るぅ》
ガーンディーバに向けて、ウッド・ゴーレムが走り出した。