SS1-102、帝国の三勇者~寄生植物キメラプラント~
《ご主人!この良くもやったなぁぁぁぁ》
ウッド・ゴーレムが怒り、腕を振りかぶってアシュリーを地面へ叩きつける。
《ハァハァ》
「ゲホッ、そんなに怒らないでよ」
『そうよ?ワタクシは無事なのよ』
多少目が回った位でダメージは、ほぼない。これも勇者という恩恵のお陰だろう。だが、首にだけ拘束されてたという事もあり、多少脳震盪気味だ。
「ハァハァ、魔王種と同意見なのは……………なんか癪なんだけど」
『プッハハハハ、この状態で良くそんな口聞けるわね。でもね、今直ぐにそんな口も聞けなくなるわぁ』
「どうしようという訳?」
『タクト、もっと近くに寄りなさい』
もう一度、両足で射りたいところだが、あれは奇襲みたいなものだ。もう2度目は通用しないだろう。
『こう、するのよ。チュッ』
アシュリーの思考が停止した。何故なら、トレント・ロードの顔がゼロ距離にあるから。いや、違う。正確には、今何をされている?
そう、何故かキスをされてるのだ。それも濃厚なやつを。口を閉じようにも言う事を聞いてくれない。
数秒が1時間に感じ、ようやく口を離してくれた時には糸が引いており、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している。
『タクト、もう離しても大丈夫よ』
《うん、分かったぁ》
シュルシュルと拘束は解け、息苦しさは無くなるが、羞恥心でいっぱいになる。
「なっななななな何をしたのぉぉぉぉぉ」
『何ってキスじゃが?もしかして、初めてだったのかや?クックククク、これは失礼な事をしたのぉ』
トレント・ロードは、そっぽを向き肩を揺らしながら笑っている。
『キャハハハハ。ほら、タクトも笑いなさい。キャハハハハ』
《ワッハハハハ》
それもツボにハマったらしく大笑いである。しかし、これは大きな隙だ。攻撃するなら今だと、アシュリーは身体を動かそうとするが何故か動かない。
「わ、ワタシに何をしたの?」
心当たりがあるとすれば、あの時だ。縛られたままキスをされた時に何か盛られたに違いない。
『ふふふふふ、あんたを蝕んでいるのは……………キメラプラント…………寄生植物の種を植え付けたわ』
「寄生植物キメラプラント!」
聞いた事はある。宿主に寄生して思いのままに操るという植物系の魔物の1つだ。
だが、あまりにも危険過ぎて100年前に絶滅させられたはずだ。
『ワタクシが誰だか忘れてないか?ワタクシは、全ての植物の頂点に立つトレント・ロードだぞ。絶滅した植物を復活させるのも容易だわ』
「くっ!」
甘くみてたのは、こちらだったかもしれない。ただ単純に力が強いだけの魔王種ならどうこう出来た。
だが、こんな搦手で攻めて来るとは誰が思うだろうか。いや、そんな弱音を吐いて誰が守って来てくれるというだろうか。
『ほら、もうそろそろ効き目が出て来る頃合ねぇ』
ここにはワタシ1人。誰も来やしない。自分1人だけで何とかしないとしょうがない。
「ぐっはぁっ…………身体が…………熱い」
まるで体内から炎が燃え上がってるかのように熱を感じる。このままでは本当に燃えてしまうではないかと錯覚する程に。
『身体を作り替えてるんですもの。そりゃぁ、痛くも熱くもなるわぁ』
「身体をだと!」
抵抗しようにも動けない。指先1つ動かしただけで激痛が走る。何かを考えるだけで頭痛が走り割れそうだ。
今まで戦って来た中で、ここまでの激痛は感じた事がない。1番痛い痛みは出産や尿路結石だと聞くが、これはそれ以上かもしれない。
「ガハッ」
吐血した。それも口だけではない。あらゆる所から突然出血し、血が出た箇所は忽ち治る。
これを何回も繰り返し、ようやく落ち着いた。数分しか満たない時間だが数時間も経っていたと思う程の経験だった……………と思う。
「ハァハァ」
『どんな気分だ?』
「…………うん、コレが森精族の身体なのかと思うと不思議な気分がする。ボクらを滅ぼした種族の身体に寄生しちゃってるんだから」
アシュリーの身体の乗っ取りに成功したキメラプラントは、身体の動きを確かめるように跳ねたり、手を握る事を繰り返してる。
(待って!返して。ワタシの身体を返してよ!)
「うっ…………」
『どうした?』
「いや、問題ない(黙れ!これからは、ボクの身体だ)」
唯一の救いは、まだアシュリーの意識が消えてない事だろう。本来ならば、乗っ取られた時点で元の意識は消えてしまう。助かる見込みは、ほぼゼロに近い。
だが、アシュリーは勇者という事もあって精神面的にも耐久力があり、精神が消えずに意識が残っているという訳だ。




