SS1-98、帝国の三勇者~光の矢~
四方八方から攻撃の嵐。ネズミ一匹逃げる隙間もない。本来なら絶体絶命な場面、普通なら死を悟り諦める。
「これくらいでワタシを倒せると思ったら大間違い。もっと怒涛な嵐みたいに攻めて来ないと…………直ぐに殺られちゃうわよ」
『こしゃくな』
「これくらい防げないと…………勇者とは到底呼べないのよ。光の聖弓ライトロード【聖光破弓】」
1本の光で出来てる矢を放つと、何十にも分裂し襲い掛かる根と葉を撃ち落とし撃沈していく。
『くっ、【木壁】』
「光は有効のようね」
最初のように耐性アリの障壁ではない。全属性に対応するなんて魔王種にも無理のようだ。そもそも光と闇に耐性のある魔物なんてドラゴンくらいだろう。
『なっ!【木壁】が突き抜けて』
光の矢というより光線に近い閃光が、そんなチャチな木で出来た壁で防げるものか。
あっという間に木で出来てる壁に風穴が空き、壁の向こう側にいるトレント・ロードにも風穴が空いてるに違いないと、アシュリーは光の矢を放った場所から一歩も動かずにジーッと風穴が空いた木の壁を見詰めていた。
ドンガラガッシャン
風穴が空きすぎて自重に耐えきれずに木の壁は崩壊し、土煙が晴れると向こう側が顕になった。
『やってくれまたわね』
トレント・ロードには傷一つもついておらず、センスで優雅に仰いでいた。
ただひとつ、木の壁が形成されるまでにはなかったものがある。
『この子が間に合わなかったら、ワタクシの胸に穴が空いていたわ』
ヨチヨチとトレント・ロードの横に歩いて来るのは、植物型の魔物だと見て分かるが、その顔が何処か愛嬌があり、魔物と分かっていても可愛いと感じてしまう。
『ウッド・ゴーレムのタクト、ワタクシの可愛い坊やよ』
《~~~~~~》
真ん丸ボディに短い手足で、トレント・ロードを必死に守ろうとする仕草が、また可愛い。
それもそのはず、ウッド・ゴーレムは100年単位で生きてる大木の根元から産まれる魔物と言われており、見付けた者には幸運が訪れるという言い伝えがある。
まぁ長年やってる冒険者程バカにする言い伝えの1つだが、その言い伝えはバカに出来ない。
森精族だけが知ってる真実。それは…………倒した者には正に様々な恩恵が与えられる。
ただし、倒すのは容易ではない。様々な属性耐性を持ち並大抵じゃない耐久力を備えてる。だが、攻撃をしてこないのが唯一の救いだ。
しかしそれは、こちらの攻撃が全く通らない事も意味する。これ程に硬い守りは中々ない。
「ウッド・ゴーレムが、こんなところにいるなんて」
『タクト、ワタクシを守りな』
《~~~~~》
だが、いくら硬くても数打てば砕けるずだ。
「これならどうです【八尺瓊勾玉】」
弓の弦を思いっ切り引き放すと、数百数千と数え切れない光の弾が時間を置き去りにしてるかの如く、数秒の間に放たれた。
決まったと思った。
森精族の矢は絶対必中。この数が全て命中すれば、いくらガードが硬いウッド・ゴーレムでもタダでは済まない。
《~~~~~》
カパッとウッド・ゴーレムが口を開けた。まるでブラックホールにでも吸い込まれると錯覚する程の吸引力だ。
しっかり踏み込んでいないと、こちらまで吸い込まれかねない。
ゴキュン
《~~~》
「そ、そんな!」
あれだけの数の光の弾を全て吸い込み飲み込んでしまった。ウッド・ゴーレムに、こんな芸当が出来るなんて聞いた事がない。
『良い子ねぇ』
《~~~~~》
トレント・ロードが、ウッド・ゴーレムを撫でると嬉しさをアピールするかのようにピョンピョンと跳ねる。
「何なの?!そいつぅ!」
普通のウッド・ゴーレムじゃない。一般的なウッド・ゴーレムが、光の弾を飲み込むはずがない。まぁ飲み込む機会なんて滅多にないが。
『何って、ワタクシの可愛い坊やじゃない。ワタクシのタネで作ったのよ』
トレント・ロードのタネで?ウッド・ゴーレムは、100年単位で生きてる大木の根元で産まれる。
トレント・ロードは、植物系の魔王種で数百年生きていてもおかしくないが……………まさか、ウッド・ゴーレムが魔王種から産まれるとは誰も思わないだろう。




