SS1-97、帝国の三勇者~弓VS樹~
「ここは…………森?」
弓の勇者アシュリーが降り立ったのは一層木々が生い茂る森林であった。
森精族でもあるアシュリーにとって木々が生い茂る森林は庭みたいなものだ。植物の言葉を聞き取り相手が何処にいるか丸わかりになるからだ。
でも、それは相手も同じ。トレント・ロードにとって、全ての植物は支配下にあり自在自由に操作する事は容易な事。
「植物の声が聞けない?」
だから、最悪な相手と言える。何故なら、絶対的に全ての植物を支配下に置けるという事は、相手の植物由来の能力を封じる事に等しい。
『オッホホホホ、ようこそ。おいでくんなまし、ワタクシの世界へ』
気の幹から生えて来るように姿を現したトレント・ロード。唯一の女性の魔王種。
『全ての植物はワタクシの支配下にある。聞けなくて当然なのよ。森精族の勇者よ』
「出たわね。早くここから出しなさい」
『それは聞けない相談ね。出たいならワタクシを倒すことね』
やはり戦う事しかないようだ。だが、相手はトレント・ロードでも元々は木の魔物なのは変わりは無い。
「木の弱点は火と相場は決まっているわ。火の聖弓アポロン【火鳥矢】」
矢が炎の鳥となって突き進む。周囲の木々にも炎が燃え移り、炭となり倒れていく。
『酷い事をするのねぇ。でも、火が弱点とは安直過ぎないかしら。例えば、これで防げるわよ【防火林】』
トレント・ロードの目の前に次々に大木が生え、火の鳥の通行を遮ぎ、そして幹から枝が生えて来たと思ったら火の鳥を包み込み幹の中へ消えていき、何も無かったのように大木は消えた。
「ウソ、ワタシの火の鳥が消えた?」
『ウッフフフフ、弱点をそのままにしてお思いまして?』
「くっ、流石は魔王種といったところかしら」
クイーンやキングと呼ばれる王種でも弱点を克服してる魔物はいないと断言しよう。
多少なりに弱点の耐性はあるが、それでも弱点は弱点。他の攻撃よりもダメージが通り安いのは変わりはない。
だが、魔王種は違っていたと驚きは隠せない。それに、さっきから感じる威圧感は他の魔物からでは味わえない。掌からヒンヤリと汗が滲み出る感触を覚える。
『あら?もうお終いかしら?来ないのなら、こっちから行きますわよ【枝棘槍】』
先端が鋭利に尖った植物のツルが数十本アシュリーに襲い掛かる。だが、こっちも長年植物と共に生きて来た種族だ。
周囲に木々が生い茂ってるならステータス以上に俊敏になる。
木の枝に飛び移っては、まるで猿やモモンガのように軽業師も顔負けな身体能力を見せつける。
『このっ!ちまちまと逃げおって』
「ここは、アナタの世界なら捕まえてみなさい。風の聖弓アストルティン【風飛矢】」
逃げる最中でも弓を引ける。どんな体勢でも百発百中な事を誇りに思ってる。今、トレント・ロードは完全にワタシの速度に着いて行けてない。
それに周囲に木々が生い茂っていれば、森精族は気配を薄く隠匿する術を持っている。だからこそ、森の戦士とも言われる由縁である。
『うふっ、風も無駄よ【防風林】』
だが、またもや木々の障壁により防がれてしまう。だけども地の利は、まだこちらにある。植物の声が聞こえなくなっただけで、植物由来の技全てを封じられた訳ではない。
『そこよ【種爆弾】』
「?!」
アシュリーの背後にあるツル植物から実が弾け、種が四方八方に散らばり、それらが爆発した。気付くのが一瞬でも遅れたら木っ端微塵になっていた。
だがしかし、爆炎の中を腕で顔を隠しながら、トレント・ロードの前へ出ざる得なかった。
『やっと出て来たわね。こそこそと隠れながら、こちらを狙う子ネズミちゃん』
「そっちこそ遠くから不意打ちしか狙わないハイエナのようね。このオバサン」
『オバサン?ワタクシがオバサン?何処がオバサンだと言うの?』
何だ?この魔物は?まるで人間のような事を気にしてるようだ。魔物は当然歳の取り方は違うに決まっている。
『ワタクシの事を妖艶と言うのよぉぉぉぉ』
「うわっ…………危っ…………ちょっと……:…タンマぁぁぁぁ」
トレント・ロードの怒りに連動するかのように地面から図太い根が伸び、アシュリーへ襲い掛かる。
『逃がさない【根鞭】・【葉切断】』
地面から図太い木の根が、上空から鋭い鋭利な葉が銃弾のように降り注ぐ。