SS1-93、帝国の三勇者~石化の愛~
次々とオーク共を喰らい尽くす様は見ていて気持ち良いものじゃない。
《ゲフッ、これは良い。まるで力が漲って来るようじゃ》
【鑑定】を使うまてもない。見ただけで明らか、前魔王が大幅に強くなった事は。
「いくら強くなっても隙がありすぎよ【純愛たる我が下僕】」
よしっ!オーク・ロードの腕に下僕になった証であるハートマークが浮かび上がっている。
これで、私の命令を何でも聞くようになる。こうなっては、いくら前魔王でえも赤子の首を捻るように簡単に殺れる。
「さぁ自害しなさい」
《ガッギギギギギ》
前魔王の精神力によって抵抗をしてるようだ。潤滑油が切れたロボットのようなぎこち無い動きで近くにある死んだオークの剣を握り、自分が握られているオーク・ロードの腕を切り落とそうと刃を振り下ろそうとしてるようだ。
いくら前魔王でも操る相手から引き離されれば動けはしない。
《キェェェェェェ》
これは【魔王の咆哮】とは違う不快になる甲高い呻き声。大気が振動している。
《あわよくば、腕を切り落とされるところであったが、残念であったな》
「そんな!私の【純愛たる我が下僕】が解けてる」
デバフの中でもトップクラスに強制力の高い純愛を解かれるとは思いもしなかった。
《して、疑問がある。どうして、お前は攻撃しないのじゃ?この愛は強力じゃ。身動き出来ない時に命を断てば済むことよ。もしや、その姿の時は、攻撃出来ないのか?》
当たっている。メタトロンは慈愛の聖優であるため、相手に愛を与えて動きを制御することが奥義としている。
それが効かないとなると、もう一つしかないメタトロンの技を使うしかない。それも愛と並ぶ程の強力なデバフとなる。
「困ったわね。もうこれしかないじゃない【愛する者を石にする】」
瞳からハート型のオーラを放つと、それに包まれた前魔王はピシッと一瞬で石化した。本当は使いたくなかった。愛で操る様の方が楽しいから。
ビシッ
「あら?ひび割れ?」
《こんなもので足止め出来るとでも思っておるのか!》
石化は数あるデバフの中でもトップクラスに解除が難しいものの一つ。ましてや、自分自身だけで解除出来る者など種族側に存在してるのだろうか?
もし、出来るとしたら勇者くらいなものだろう。それ位に前魔王は強いデバフ耐性を備え付けているらしい。
「そんな効かないなんて!」
《グッハハハハ、武器の身体で助かったぞ。オーク・ロードだけなら確実に石化しておったわい》
どうやら相性の問題みたいだ。確かに武器に掛けるデバフは存在しない。切れ味を増したり、耐久力を増すバフなら存在するが、いくら鉱石や貴金属で作った武器に石化を掛けても意味をなさない。
「そんなのアリですか?!」
《グッハハハハ、ついてるぞ。最早、もう何も出来まい》
「いえ、お忘れですか?七つの美徳だと。この姿では無理ですが、他の美徳になれば良いだけのこと」
残す姿は六つ。でもまぁ全部の姿を見せる事なく終わるとは思う。
「お望みとあらば…………今度は攻撃特化の天使としましょう。勤勉の聖優サンダルフォン」
ココアの背が縮み、まるで10歳くらいのロリ体型へと変貌を遂げた。だが、その容姿から想像がつかない程の威圧感を放っている。
《な、なんだ!その姿は!》
「ふっふぁー、久し振りの外だぜ。お前は誰だ?」
背伸びをして前魔王に問うココア?ではない何か。先程までの威圧感は感じられない。
《ふざけているのか?!》
「いやいや、ふざけてないよ。ボク達、美徳の天使達はそれぞれ人格を持っててね。メタトロンは能力だけ貸して外に出たがらないけど、ボクは違う。ココア様の身体を借りて直接外を満喫したいのさ。だから、お前とボクは初めましてなのさ」
タダ単の技術の領域を超えている。天使の顕現なんて、それではまるで神の御業ではないか。
教会が裏でこっそり神や天使を、その身に降ろす【神降ろし】を人体実験を行っているが、そのどれもが発狂して廃人になってしまうという。
《なっ!本物の天使だと?!》
「うーん、完璧な顕現じゃないから本物でも偽物でもないかな。完璧に顕現しちゃうとココア様の身体をボク達のものになっちゃうからね。それで、ボクの敵はお前で良いのかな?」
ニッコリとサンダルフォンは微笑む。口元は笑っているが目元が笑っていない。




