SS1-90、帝国の三勇者~呪われし武器~
体重が増加しない事は、世界中の女性の長年の夢だ。どれだけ食べても良い。敵である脂肪やカロリーなど気にしなくても良い。
これが嬉しくない女性はいない。それに露出が激しいアイドル衣装と似た歌の勇者の勇者装束。こんなの体型を維持出来なきゃ着れるものではない。
でも、いくら入るからと言っても食べ切れる量を遥かに超えている。
「アイテムボックスに仕舞おうかしら?」
見た目はアレだが、私たち勇者にとって見た目など些細なこと。美味ければ無問題。
『ゲホゴホ…………オデは…………どうして倒れてるブヒ』
「あらっ?お目覚め?」
配下のオークと一緒になって踊っていたこと覚えてないようだ。まぁ反対の立場で記憶に残ってたら死ぬ程に恥ずかしいだろう。
『なっ!お前たち!どうしたブヒか?!』
「私が美味しく頂きました」
まだ全部アイテムボックスに仕舞い終わってなかったところを見て数秒驚愕した後、額に血管が浮かび上がり憤怒の表情を顕にしている。
『それは真であるブヒか?』
「そうよ。これは後で食べようと思って仕舞ってるところよ」
ブルブルブルブル
『許さん、許さんブヒよ』
早い!
片手に戦槌を持ち振り上げ、ココアに向かって迫った。怒りで一時的でもステータスが上昇したのか?最初の頃より速度が上がっている。
「チッ、【音速移動】」
『舐めるなぁブヒ』
「なっ!」
音速で移動してるはずなのにオーク・ロードの戦鎚の頭が直ぐそこまで迫っていた。
これは回避出来ない。必ず当たる。
「くっ、【音壁】」
音による障壁を前方に張り、どうにか防ぎココアは後方へと吹き飛び着地した。
「有り得ない」
最初の速度よりも別人になったみたいに段違いに上昇している。まるで、100m走が19秒代の子がいきなり11秒というトンデモ記録をただき出した事のようだ。
「いえ、オーク・ロードだけの能力じゃないわね。その武器が要因かしら?」
最初は感じなかった禍々しいオーラが戦鎚から感じる。ただの武器じゃない。勇者が持つ聖武器やそれに似せて作られた魔具と似た感覚がする。
《クッカカカカ、よう分かったのぉ》
「喋った!」
驚きはしたが、聖武器も意志を持ち、メグミの槍なんかとある技術を使うと話すようになる。身近にいる分、そこまで混乱するほどではない。
そこで思い当たる心当たりがあった。
「まさか呪われし武器?たまにダンジョンで見つかるという」
魔具は、まず喋る事はない。そもそも聖武器を真似て作った武器が魔具なので意志を持つ事はない。
聖武器は、使う技術によって喋るようになる事もあるが、今オーク・ロードが技術を使ってる様子はないし、戦鎚型の聖武器は既に存在してるから消去法で除かれる。
ギロリ
戦鎚の頭に数十の目が生え、こちらを見詰めて来る。魔物やランクが高い冒険者から感じた事はあるが、武器から威圧感を放たれた事は今までにない。
《そこんじょらの武器と一緒にするんじゃねぇの》
「す、すみません。それで、あなたは一体?」
《ワシか?ワシはな、前の魔王の魂よ》
前の魔王の魂?
《肉体が滅んだ後、魂で彷徨っていたのじゃよ》
つまりは、レイスという魔物になっていた。それも魔王の魂だからレイスの上位種の可能性がある。
《彷徨っていたところを、誰がやったのかは知らんのじゃが、この戦鎚に封印したのじゃ》
一般のレイスを封印しても呪うには弱すぎるが、魔王程の魂で出来たレイスなら簡単に呪われし武器になれる。
《こいつも魔王に近し者じゃろ?乗っ取るのに時間が掛かったが、身体が馴染むわい。そして、お前を倒せば、ここを出られるのじゃろ?一緒に出ぬか?死にたくないじゃろ?》
「もしかして、ここを出て暴れるつもり?」
《久々に身体を得て暴れたい気持ち…………分かるじゃろ?》
「わからないわ」
ココアは首を横に振る。
こんなヤバい奴を外に解き放ったら本当にヤバい。ここで倒さないと神樹の森フリーヘイムは壊滅する気がする。
それ程に前魔王の魂が宿るという呪われし武器化してる戦鎚から禍々しいオーラが常に放たれている。




