SS1-87、帝国の三勇者~歌vsブタ~
「ここは…………臭っ!なによ、この酷い匂いは」
鼻を劈く酷い匂い。下水道より2回り酷い匂い、まるで豚小屋に糞尿を何ヶ月間か放置したような匂いだ。
この匂いのせいで、周囲の草木が萎れてしまっている。ココアは、どうしても我慢が出来ず、鼻栓を突っ込み、ゴーグルを着用した。
『ブヒヒヒヒ、当たりブヒね。オデの相手は女ブヒよ』
「オーク・ロード…………道理で臭う訳ね」
オークは、魔物の中でダントツ1位で臭い魔物と言われている。
『そう褒められると照れるブヒよ』
褒めてない。褒めてない。
「それで今から戦えば良いのね?」
良く見ると、オーク・ロードの武器は戦槌で、しかも柄だけでも3mは超えており、頭だけでもココアの足元から肩くらいまである。当たれば楽々、ココアを押し潰す事は出来よう。
だが、どう見ても鈍足な武器で、それを扱うオーク・ロードも鈍足に見える。
『そうブヒよ』
「そう、分かったわ【音速移動】」
先手必勝
『ブヒッ!』
歌の勇者であると同時に最速の勇者でもあるココア。今のココアは音速で、オーク・ロードの距離を一気に詰める。とうのオークはロードは目で追えてない。
「さっさと倒して帰るわ【振動拳】」
一見、タダのパンチに見えるが、1秒に数万回振動している拳がオーク・ロードの腹にめり込んだ。振動は障害物関係なく内側へと伝わる。どんな強者でも内蔵だけは鍛える事は出来ない。
故に内蔵へダメージを与える事が出来れば勝てる寸法。
「吹き飛びなさい」
『ブヒぃぃぃぃぃぃ』
ココアの数百倍はありそうな巨体が浮き、遙か後方へと吹き飛び、土壁へ激突し崩れて来た土塊の下敷きになった。
「普通ならこれで決着は着いてるはずなのですが、まだ終わりじゃないですわよね」
あのブクブクと太った腹の脂肪の壁に遮られ、上手く中まで振動を伝える事が出来ていない気がする。精々20%といったところか。
『ゲフッ、効いたブヒよ』
タユンタユンとお腹を揺らし土塊を退かして、何も無かったように起き上がって来た。あれだけ吹き飛んだにも関わらず見た目では無傷とか凹むというもの。
「やはり魔王種といったところかしら。アレだけで倒せると思ってなかったですが…………無傷とは少し凹みますわ」
『効いたブヒよ。さすが勇者なだけはあるブヒね』
良く言う。タダ救いなのは、こちらの速度には着いて来れてないって事。
『それに強い女は好きブヒよ』
ガクブル……………寒気がした。
あんなのに好かれてもちっとも嬉しくない。リンカには悪いが、せめてカズト位強くてイケメンじゃないと嫌だ。
『次はオラ、ブヒね』
飛んだ!あの巨体でジャンプして巨大戦槌を振り上げ、私へと叩き込む積もりが、もちろん避けた。
ドゴーン
見事に隕石が落下したような衝撃音と共にクレーターが出来ていた。もし、当たっていたら木っ端微塵に肉塊へと変貌していただろう。
「ヒュー、大した威力だこと」
『オラの一撃を避けるとはやるブヒね』
「あんたがトロイだけよ」
確かに遅いが、あの威力は無視は出来ない。カズトやリンカなら耐えられそうだけど、紙装甲な私には無理な話だ。
「これなら効くかしら?【衝撃音】」
息を思いっ切り吸い込み、片手にマイクを持ち一気に甲高い声を発した。声は衝撃波として走り、オーク・ロードを襲った。
衝撃波が走った箇所は地面が抉れ、オーク・ロードの歯が数本折れ地面に突っ伏してはゲロっていた。
『ゲロゲロ…………うっぷ、気持ち悪いブヒ』
「うげっ、汚いわね」
完全にモザイクが掛かるであろ絵面に、ココアもソッポを向き目の端にも入れないようにしてる。
『ハァハァ、なんという攻撃をしてくるブヒ。益々惚れてしまうブヒよ』
どうにか出せる物は出せたようで、オーク・ロードは立ち上がり、ココアを上目遣いで見詰めると頬を僅かに染めた。
ゾォォォォ
「き、気持ち悪い」
オーク・ロードの言葉に本気で寒気を覚えたココアは両手にシンバルを召喚し鳴らすと【音武器・斬】を発動。オーク・ロードの両腕が肘から先が切断された。




