SS1-83、帝国の三勇者~星影~
『なにっ!キサマ!遠隔でも操作出来るのか!』
ジャックをタダの脳筋だと思っていた。物質の遠隔操作なんて、魔法使いの十八番な高等技術だ。
属性を纏った拳を放つ事は、筋肉を鍛え見た目近距離系を得意とする武闘家なら誰しも考え付くであろう中距離技だから、リザード・ロードもそう判断した。
だから、けして魔法使いみたいな技をやらないと勝手に憶測で考えてしまった。
「俺もこの戦いの中で強くなってるんだ」
『だが、まだ甘いようだな?捕まえてどうする?その状態で動けるのか?』
基本的に1つの魔法や技術発動中に他の技を発動する事は無理なのである。2つ以上の技術を使用出来る者がいるとするならば、例外を除き勇者のみである。
だから、拘束する魔法や技術を使ってる間に攻撃は出来ないのである。
『だから、離せよ。苦しい顔をしてるじゃないか?慣れない遠隔操作で疲れて来てるんだろ?』
「くっ」
直感でやれるではないかと思ったが、ここまでキツいとは思いもしなかった。見た目以上に属性の遠隔操作は疲れる。
「ハァハァ」
『やっと離してくれたか』
遠く離れた水の塊で捕まえて置くことには限界で解いてしまった。まるで、水の中で息を止めてる感じに似ている。
『ほら背後が、がら空きですぞ』
いくら息を切らしていても背後を取られるバカな真似はしない。一瞬、目を離した隙に目の前からいなくなり、数秒時間が掛からない間に俺の背後に移動してした。
「ちっ【旋風脚】」
『おっと、危ない…………ではないですか』
また背後から声がして、今度は槍を突いて俺の顔面を狙って来た。背中を逸らし避けたが腑に落ちない。
蹴りを後退して避けたはずのリザード・ロードが、また背後にいた。これは瞬間移動しないと説明がつかない。
『不思議と思ってるようですね』
「あぁ、いくら速度が早くとも、あの一瞬で背後に回ることは不可能だ」
『答えはこれです。【星影】、影と影を移動する技術であります』
影と影を移動する。それなら説明がつく。どんなに離れていても一瞬で移動出来てしまう。
「教えても良いのか?」
『教えても対策が難しいでしょう。なんら問題ない』
確かに難しいが、来るところが分かってしまえば防ぐ事は出来る。影から影に移動という事は、ほぼ真下から来る可能性が高い。
『移動が出来るという事は、こういう事も出来る【星影・鋭】』
リザード・ロードが自分の影に槍を突き刺した。そうすると、不思議な事に沼みたいに槍の先端が吸い込まれ、その槍の先端は俺の影から顔面目掛けて突き出て来た。
「うおっ!」
紙一重に躱した。後、数mmズレてたら風穴が空いていた。だが、1回だけでは終わらない。
『動物の直感とはいえ、良く躱しますね』
「ちょっ、やめ!止めろって言ってるんだろ!【水鉄砲】」
『ゲフッ』
狙いを定められない状況で、右手を銃の形に握り影からの槍を躱しながら指先から小粒サイズの水の弾をジェット機と思われる程の水圧で打ち出した。
その威力は、十数mmの鋼の板を貫通する程の威力を持つ。そんな弾が、ちょうどリザード・ロードの脇腹から少しズレたところに当たった。
命中した水の弾は、散弾し脇腹の6割を吹き飛ばした。血が吹き出て、よろよろと立っていられるのが奇跡な程の惨状であり、生きてるのが信じられないとジャックも見詰めている。
「おい、生きてるのか?」
『ゲホッガハッ…………な………める…………な…………ワレは…………魔王………種………だぞ』
話せば話す程に口元からゴボゴボと血を吹き出して今にでも死にそうなのは誰の目でも明らかだ。
だが、そこは魔王種といったところだ。えぐれた脇腹から肉が増殖し何も無かったのように傷口が塞がった。
『魔力や体力を、ごっそり持っていかれるが、どんな傷でもたちまち回復する【超再生】だ』
俺もタフな方だが、あそこまでの傷を回復出来るかって聞かれたら一応出来ると言うが、こんな短時間では無理だ。
「ふぅ、焦ったぜ」
『変なヤツだ。敵の心配するとは』
「俺の目的は、ここから出る事でお前を殺すことではない」
相手を殺す事が条件なら、俺は何回でも殺さない。それが俺の信条なのだから。




