SS1-82、帝国の三勇者~氷の慈悲~
『何故?直ぐに割らなかった?』
「…………!!」
それは自分でも分からない。頭の中で声が響いた時に漸く氷漬けにしたリザード・ロードを割ろうとしたが、それでも躊躇してしまい間に合わなかった。
『もしや、種族を殺した事ないのか?』
「なっ!」
冒険者として、盗賊や悪党を任務として殺す事もある。あるが、ジャックは殺さずに捕まえ衛兵に引き渡して来た。
故に、Aランク冒険者としての二つ名は《不殺》と名付けられ、とてづも無く高い自然治癒力によりけして死なない意味と種族を殺さない2つの意味合いを掛け合わせて付けられた。
『くっはははは、これは傑作だ。見た限り勇者じゃないが、Aランクの冒険者といったところか?そんなヤツが殺した事がないとは、本当に舐めてるのか?』
リザード・ロードから放たれる殺気が、肌にチリチリと細い針で刺されるように痛い。
もちろん魔物は殺した事はある。あるが、今戦ってる魔王種は意思疎通が出来、まるで俺らみたいな種族じゃないかと思ってしまっている。
「舐めてはいない。殺さない覚悟 、これも極めていけば一種の信念だと思わないか?」
でも、魔物は殺している。家畜と同じで殺さないと、この世界では生活が成り立たないから仕方ない。
『クっふふふふ、確かにそうだ。茨の道だが、Aランクになってる時点で認めよう。お前は強いが、どうやって出るんだ?』
うっすらと気付いていた。恐らく、どっちかが死なないとここから出られないと。
「お前、世界持ちが作り出す世界に詳しくないだろ?」
『何を言っている?』
「世界持ちが作り出す世界から抜け出す方法、1つは世界持ち本人の許可での出入り。これは、お前が世界持ち本人じゃないから無理。2つ目は、難しいがルールを設けを、それをクリアする方法。どっちかが死なないと出れないというのはこれだな。最後の方法は、世界の上書きだ」
相手を殺す事が出来ないのなら3つ目の方法しかない。ただし、前提条件としてジャックも世界持ちだという事が大事だ。
『世界の上書き?』
「そうだ、相手の世界を自分が持ってる世界に上書きするんだ。だが、条件があってだな。1つ目は、前提条件として俺も世界持ちでなければならない。当たり前だよな。自分の世界を持ってなければ、どうやって相手の世界を上書きすれば良いんだ?」
2つ目にと人差し指と中指を立てた。
「こっからが大事だ。格下の世界持ちか弱ってる世界持ちにしか上書きが出来ない」
3つ目にと薬指を更に立てる。
「お前は、この世界と繋がってる。世界持ちじゃなくても世界と繋がっていれば、上書きが出来る。問題は、俺の方が格下なんだよな。だからさ」
リザード・ロードの目の前からジャックが消えた。いや、風が吹いてる。風の速度で速く動いてるだけだ。
「ボコボコになってくれない?おらぁ【スクリューアッパー】」
スカッと空ぶった。
『フザケンナ!《不殺》の意思は何処にいった!』
「殺さないだけで、普通にボコボコにするさ。だって、大人しくならないじゃないか?」
『普通に殺すよりタチが悪いわ』
それでは拷問と何ら変わらない。命があれば儲けものと言うが、これは死ぬ事よりキツイ。
「それが何が悪い?相手は悪い事をしてるのだぞ。殺さないだけ感謝してもらいたいものだ。それに水属性を習得したお陰で、回復も出来るようになってな。これで今まで以上に上手くやれそうだ」
『更にタチが悪くなってる!』
「安心しろ。お互いに死なずに出れるんだ。大人しくボコボコにされろ」
『何処にも安心出来る要素がないのだが!』
そうだろうか?俺自身、そこまでハチャメチャな事を言ってるとは思っていない。リンカの姉御なら分かってくれるはずだ。
「おらおらおら、逃げるなって」
『誰が進んで痛い目を見なきゃならんのだ。いい加減にしろ【流れ星】』
淡く光る数十本の槍が空中に出現し、ジャックへ向かい飛んで行く。
『串刺しになりやがれ』
「【流水の構え】そんなものは当たらん」
まるで槍自身がジャックを避けてる様に当たらない。全て地面に突き刺さり霧散した。
「そこに居ても良いのか?」
『あっ?』
「そこは、さっきお前が氷を溶かした場所だ。【水掴み】」
ジャックが両手で握手するように手を合わせた時、リザード・ロードの足元にある水が集まり、リザード・ロードの身体にまとわりつき拘束した。




