SS1-79、帝国の三勇者~魔槍の形態~
『何だ?これは!』
爆発する前には絶対に存在しなかった黒いドームを良く見ると、何本もの棒がクルクルと回っており、それらが黒いドームを形成していた。
「ふぅ、危なかったぜ」
『槍の勇者!キサマ生きていたのかや!』
あの爆発に巻き込まれて生きているなど、誰が予想出来るのか?驚愕するしかない。
「いやいや、流石にオレも焦った焦った。1秒でも判断が遅れていたらタダじゃ済まなかっただろうぜ」
黒い心臓が爆発する数秒前、黒い心臓を突き刺してるゲイ・ボルグを手放し、新たにゲイ・ボルグを十数本形成すると、障壁を作るように黒いドームを作った訳だ。
「【絶対必中の魔槍】には、まだ特殊機能が備わっていてな。こういう風に分裂する事も可能なんだ。何事にも奥の手は隠しておくものだぜ?」
簡単に言うが、そう簡単な事ではないとオーガ・ロードは聖刀ライキリを使用してたから分かる。
魔具を含め数ある武器の中で、複雑怪奇な性能を持ってる聖武器を、同じ物であっても複数操るなんて、腕が何本もあり、それぞれで違う図形を書いてる様なものだ。
到底、魔王種であるオーガ・ロードでさえ、不可能な神業といえよう。
『バケモノめ』
「酷い事を言うなよ。直ぐに殺したくなるじゃない」
それぞれ回転していたゲイ・ボルグの回転が止まり、一斉にオーガ・ロードへと向いた。
「これを避けられるかな?【絶対必中の魔槍・五月雨】」
『くそっ』
メグミに背を向け走り出した。今、この状況を打破するには、やはり同じ聖武器であるライキリが必要と判断したからだ。
ゲイ・ボルグに吹き飛ばされた右腕と一緒に回収するため肩から伸びてる魔素を右腕の切断面にへとくっ付けると、まるでゴムが縮むように引き寄せられ肩の切断面とピッタリくっ付いた。
その手には、ライキリが握られており軽く上下に素振りをし問題なく動かせる事を確認しつつ、前へ向き直った。今まさに数多くのゲイ・ボルグが迫って来ていた。
『これでまた使える。水の型【流水牡丹・乱舞】』
水による軌道により複数のゲイ・ボルグは受け流され、あらぬ方向へと突き進み地面に突き刺さっていた。
「吹き飛ばしたはずの腕がくっ付いた?」
『魔王種の生命力を甘くみるなや。腕の1本や2本、直ぐにくっ付く』
切り口の境目は既に分からない程に再生してる。ただし、魔素の扱いが難しく魔王種になっても絶対に出来るとは限らない。
「それに、あの数を受け流すとは、オレも驚いたぜ」
『ふん、一流の剣士は、あの槍の雨なぞに怪我を負ってたら笑われるや』
魔物なのに一流の剣士を名乗る方が笑えるとメグミは思う。
「だけど、受け流したのが運の尽き。【絶対必中の魔槍】第三形態【イバラ】」
受け流した結果として地面に突き刺さってるゲイ・ボルグ付近から急成長する竹やイタドリのように次から次へと生えて来た。
『なにっ!ならば、風の型【嵐牙】』
オーガ・ロードが刀を振るう度に勢い良く風が吹き、生えて来るゲイ・ボルグを、バッサバッサと斬り伏せた。
「おっと!危うく真っ二つになるところだったぜ」
クルクルとゲイ・ボルグの本体は、持ち主であるメグミの手元に帰って行った。
『それはこっちのセリフや。危うくハリネズミになるところやったわ』
闇の聖槍ゲイ・ボルグを解除した事により、分裂した分と地面に生えていたゲイ・ボルグは跡形もなく消えた。
『闇の聖槍を見せてくれたんや。光も見せてくれぬか?剣士として見ておきたいのや』
「うーん…………ヤダね。光を出しても阻止されそうだし、それならいっそ、オレのシリーズ系を見せてあげる」
シリーズ系と聞いた途端にオーガ・ロードはゾクゾクと武者震いが起こった。
勇者しか使えない聖武器の本来の力だとされている。本来なら勇者しか使えない聖武器だが、何らかの方法で使用出来てもシリーズ系の技術だけは使えない。
「リンカとココアがいたら、制限を設けられたり禁止されるからなぁ。今は、お前とオレ2人しかいない。思う存分に使えるというものだ」
笑顔が怖い。口元は笑っているが、目元が笑っていない。武者震いから悪寒がしてきた。まるで周囲の温度が5度ほど下がったような感覚がある。
「さぁ出番だよ。起きな、暴食の聖槍グラトニー」
《ふぁー、おはよう。ご主人》
や、槍が喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!




