SS1-74、帝国の三勇者~風がやんだ~
氷の上で地団駄を踏むゴブリン・ロードは、氷に足を取られ、ズルんと背後に転んでしまった。
『ハァハァ、ムカつく氷だ』
「お前が勝手に転んだだけ」
『お前もムカつく』
数秒間思案するゴブリン・ロード。氷を見て何かを思い付いたのか?ゆっくりと立ち上がる。
『なら…………この氷を溶かせば良いだけのこと』
「やれるものならやってみれば良い。ご主人様なら可能だけど、お前には無理だ」
魔法で作った氷は、そう簡単には溶けない。術者が溶かすか、術者よりも強力な魔法をぶつけるしかない。
『優炎魔法【炎竜巻】』
「忘れてる。こっちは水が得意という事に。優級魔法【水魔法】」
十数mはありそうな炎と水の竜巻。それらがお互いぶつかり合い、水の竜巻が大量の水蒸気と変化し炎の竜巻を巻き込んで消滅した。
『ワスと魔法が同等だと!』
水は炎より強い。それはつまり、炎の威力が最低でも倍でないと、水に勝てないという事を意味する。威力が同等だと負けるのは決まっていた。
「同等だと意味はない。それは魔物でも本能で理解してること。やはり、お前はバカなのだな。ご主人様なら大笑いしてるところだ」
『ワスも知っておる。後先で威力を同等にされただけだ』
だけど、優級といえど魔王種が放った魔法であれば、一般の上級から最悪極級まで達する。
それを難なく同じ威力で止めたという事は、アクアもまた魔王種や勇者と同等な力を持っている事に他ならない。
「ご主人様なら負け惜しみと言うに違いない」
『まだ負けていない。これから魔王種の真髄を見せよう。はぁぁぁぁ』
ゴブリン・ロードが魔力を練り始めた。空気が振動し離れて居てもヒリヒリと肌が痺れる程にゴブリン・ロードの魔力が溢れて来てる。
「うっ…………これが…………魔物の頂点と言われる魔王種の魔力!」
もしメグミがアクアをティムし、獣人へと進化させてくれなかったら、いくらSランクのウォータイガーでも一目散に逃げてる。
『極級風魔法【台風一家】』
「これが魔王種の力!」
まるで天変地異だ。大気が割れ、十数本の竜巻が出現し、無数の風の刃があられ狂う。
こんな魔法を見せつけられ絶対に勝てるという自信は普通なら砕け散る。
『何を笑っておる?』
だが、アクアは違った。
「今、オレ笑っています?」
自分の頬を指先で触り確かめる。確かに笑ってるようだ。今ならご主人様の気持ちが分かるかもしれない。
「きっと、この戦いが楽しくて仕方ないのだと思います」
『戦いが楽しいだと?』
「お前も笑ってる風に見えるが?」
『わっはははは、そうだ!魔王種になったからには戦いを楽しまなければ、それは魔王種じゃない』
オレもこんなにワクワクしたのは初めてだ。まだ魔物だった頃は、本能で狩りをしてるだったが、初めての格上の敵との戦いが、こんなに楽しいとは思いもし無かった。
『ワスをもっと楽しませろ』
「それは、こっちのセリフ」
天変地異な竜巻が荒れ狂う中、拳と拳、爪と大剣が交差し合う。
「最弱な魔物なのに執拗い」
『ワスは魔王種。魔物の頂点の一角であるぞ。それを最弱と申すか!』
「魔王種なんか関係ない。オレから見たら最弱だ。こんな竜巻を直ぐに止めてやる。極級氷魔法【星煌めく雪結晶】」
自分の左腕を爪で切り落とし、それを凍らせ砕け散る事により発動する氷魔法。
何の躊躇もなく左腕を切り落とした。だが、アクアにとって何のデメリットにならない。切り落としてもまた周囲の水分が集まり生えてくる。
『それが極級魔法だと?笑わせてくれる。極級魔法とは、最も派手で恐怖を植え付けるような魔法だ。そんな魔法が極級魔法だと断じてない』
そう、ゴブリン・ロードが言う通りな魔法だと誰もが言う。だが、見た目こそ派手ではないがアクアの放った魔法も魔法の頂点足り得る効果を、じっくりと発揮していた。
「何処を見ている?」
『なにっ?』
「風が止んでるぞ」
アクアの言葉に、ハッと上空を見ると信じられない光景が広がっていた。あんなに荒々しく吹き荒れていた竜巻が全て凍っているではないか!




