SS1-72、帝国の三勇者~水虎vs小鬼~
「ここは何処?」
ご主人様と別々の世界へ転移させられた。それにしても酷い臭いだ。悪臭と言っても良い。
そんな臭いの源は、目の前にいる確かゴブリン・ロードという魔王種。本来なら前のオレなら魔物の頂点の一角として敬う対象として恐れていた。
だが、今やご主人様に忠誠を誓う身。恐れる者なし。ご主人様のために目の前の魔王種を倒す。
『きっひひひひ、ココは小鬼の世界。女なら犯してから殺すのによぉ。男なら、ただ嬲り殺すだけだぁ』
「ご主人様のために勝ってここから出る」
いくら魔王種でもゴブリンはゴブリン。魔王種の中でも最弱な部類に入るに違いない。
「はぁぁぁぁ【水鉤爪】」
『はぁ舐めてるのか?そんな貧相な爪で』
ガキン
本来ならゴブリンが持てそうにない大剣だが、本来のゴブリンより5倍はある巨体なため軽々持ち上げ、アクアの爪を受け止めた。
まるでアクアが子供のようである。
ガキガキ
『闇魔法【怨嗟の鎖】』
「?!」
片手で大剣を、もう片手で魔法陣を描き発動させた。アクアは驚愕を隠せないでいる。ゴブリンはスライムと並ぶ最弱な魔物で魔法は使えないはずなのだから。
「これは!」
『きっひひひひ、驚いてる。ワガハイがゴブリンだと油断したな。ワガハイは、ロードなのだぞ。魔法が使えて当たり前だ』
何もないはずの空間から黒い鎖が伸び、アクアの両腕両足に絡み付き張り付け状態で拘束する。
『これでワガハイの勝ちだ』
ゴブリン・ロードが、余裕そうに大きく大剣を振りかぶりアクアへと振りおろそうとしていた。
「ついさっきまでオレの…………アクアの本来の力を忘れていた」
ご主人様…………メグミにティムされ名前を与えられた事により獣人へと進化。だが、その影響で魔物の頃の記憶の1部が欠如していたようだ。
「これがアクアの本当の力だ」
ブゥン
ゴブリン・ロードの大剣が空を切った。本当なら当たっていた。だが、そうはならなかった。
何故なら、アクアを拘束していた鎖が解け回避に成功していた。
『なにっ!【怨嗟の鎖】を解いただと!』
「解いてない。ただ、アクアに拘束が効かないだけ」
アクアは、ウォータイガの獣人。それ故にウォータイガーの特性も受け継いでいる。
その特性とは、体が流体であるということ。ウォータイガーは別名、スライムタイガーとも呼ばれ元より物理攻撃は効かないSランク以上の魔物である。
『ワガハイの剣が効かない訳がない』
再度大剣を振り上げ、アクアに目掛けて振り下ろした。別に避けても良かったが、敢えて右腕で受けた。
『ぐっあはははは、どうだ?ワガハイの剣の味はぁ?』
ブシュっとアクアの右腕が吹き飛んだが、アクアは平気な顔をしている。
物理攻撃が効かない訳、それは周囲に少しでも水が含まれるなら再生出来、吹き飛ばされた体の一部をくっ付ける事が出来る。
だから、こんな事も出来る。
「効かない。次はこっちから行く【水流噴射拳】」
拳だけを切り離しジェット噴射のように発射させる。その威力は鉄の鎧を軽く貫通させる程だ。
『ぐへッ!』
あの巨体が浮き、醜い顔からヨダレが洪水のように溢れ出て魔王種を名乗るには情けない姿となっている。
だが、それでも魔王種の一角。アクアが体を貫く勢いで放ったものの、浮かせただけに留まったのだから。
「思ったより硬い」
『ゲホッ、コノヤロウ。コロしてやる。コロして、あの槍使いの女の前に出してやれば、どんな顔をするか楽しみだ』
「なんだと!ご主人様に手を出してみろ。死よりも恐ろしい事が待ってる」
ギロッと猛獣が、ブチ切れたような瞳で睨みつけるアクア。まだ出会って間もないが、大好きなご主人様を傷つけようとする輩をアクアは許さない。
『きっひひひひ、おぅ怖い怖い。なら、止めてみせろや』
「お前を殺す。【水流噴射拳】」
『同じ技が通用するか。土魔法【剛鉄の壁】』
地面から数十cmはある壁がせり上って来てゴブリン・ロードの前を塞ぐ。そこに【水流噴射拳】が当たるのだが、多少凹ませただけで貫きはしなかった。




