SS1-71、帝国の三勇者~ネズミに食べられた~
「大人しく分身のエサになって?」
『こんなところで殺られては魔王種のなおれ。雷の法【電撃波】』
ウルフ・ロードを中心に電気のドーム状の障壁が形成される。これに触るものは感電+火傷を負うことになる。
『その場凌ぎだが入ってこれまい』
チューチューチュー
「やるけど、悪手」
『なにっ!』
「ほらっ、もうヒビが入り始めてるよ?」
チューチューチュー
【増殖】は、リンカの魔力が続く限り無限増殖を繰り返す。いくら倒しても焼け石に水なのだ。
だから、何回何百回と突っ込んで行く。相手を食べるために。それとネズミは以外にと学習能力が高い動物の1つ。
それ故に、どんな魔法や技術でも何時かは攻略されてしまう。それが早いか遅いかの違いしかない。
『なんだ、コイツらは!』
「何って分身?ネズミは貪欲」
分身一体一体は、腕力の強い+技術を使うだけのタダのネズミ。だが、遺伝子が引き継がれるように増殖する度に強くなっていく。
敵の強さにより強くなる幅は大きくなり、耐性が付けられ弱点を看破させられる。リンカも例外ではない。
「穴が開いた?」
雷の障壁に穴が開き、そこから次から次へと分身がなだれ込んで来る。
『来るなぁぁぁぁぁ!火の法【焔玉】』
複数の火の玉が分身達を襲う。一瞬で焼け肉が焼ける匂いが辺りに漂う。だが、これも焼け石に水だ。
火の玉で燃える数よりも増殖するスピードの方が速い。これでお終いかと思いきや、やはり魔王種なだけはある。
『うおォォォォオ!無の法奥義【無惨】』
ウルフ・ロードの鋭く尖った爪から繰り出される斬撃は無数に別れ、分身達を一網打尽に切り裂いて行く。
その命中した斬撃も分裂し、分身達を斬り殺していくのを繰り返していく。
「思ったよりやる」
『これでキサマを食い殺せるというものよ』
「でもほら、まだ終わってないよ?」
リンカが指を差した方向を見ると、ウルフ・ロードは驚愕を通り越して目が点になっていた。
『なんだ?!あれは!』
【無残】によって生み出されていた斬撃を分身達が食べていた。
比喩とかじゃなく、実態がないはずの斬撃をモグモグと美味しそうに無我夢中で食べてる。
魔力を吸収する魔物はいるが、斬撃を食べる魔物なんていない。
ゲフッ
『ぜ、全部食いやがった!』
「リンカの分身ちゃんを甘くみた結果。良い気味」
ガブ
『いたっ!』
ウルフ・ロードの背中に一匹、分身が張り付いており、思いっきり鋭い歯で噛み付いた。
『このぉ』
「無駄。1回張り付いたら逃がしてくれない」
1匹から2匹、2匹から4匹と倍倍に増えて行き、ほんの十数分でウルフ・ロード全体を覆い尽くした。良く今まで張り付かなかった事が奇跡と思える。
そこは魔物の頂点の一角である本能といえる。頂点に立つ個体は、なにも強さが全てではない。ビビりと言ったらそれまでだが、多少危険察知が出来ないとトップは務まらない。
だが、分身達は、それらを凌駕する。相手の危険察知を掻い潜る事が出来る。
ほぼゼロ距離にならない限り気が付く事は、ほぼ不可能に近い。リンカも相手の意識外から近寄る事は可能だが、分身には負ける。
自分が生み出した存在なだけに最初使用した時はショックを隠し切れなかった。
『このっ!離せ』
ガリバー旅行記のガリバーのように分身達に仰向けで張り付け状態になっている。
いくらウルフ・ロードが力を入れようとも両腕両足を押さえてる分身達は、ビクともしない。
ちゅーちゅーちゅーちゅー
『おい!おいおい止めろ。ワレが悪かったから、これを止めさせてくれ』
「リンカには無理」
それぞれの部位を押さえてる分身数匹が、キラーンと歯を刃のように光輝かせ、それをウルフ・ロードへと食い込ませる。
『ぎゃぁぁぁぁぁ!痛い痛い痛い痛い』
「ごめんね、リンカには止められない」
これが、もっと鋭い剣や斧なら一瞬で楽に死なせてあげられた。だから、せめて最後息を引き取るまで見守ってあげようとリンカは、その光景を目に焼き付けた。
「あっ、世界が揺らぎ始めた。これで戻れるかな?」
ウルフ・ロードを倒した事で、犬の世界が保てなくなり崩れ始めた。




