SS1-70、帝国の三勇者~ネズミの増殖~
チューチューチューチューチューチュー
落雷に当たってるはずのリンカは無事である。その代わりにネズミの耳と尻尾が付いたネズミサイズのリンカ?らしき生き物が次々に落雷の餌食になっている。
まるでリンカを護る障壁となってるような………そんな風に見える。
『これは一体』
「リンカのシリーズ系の1つ、子の聖拳リーベラの技術【増殖】、リンカの分身を生み出すのです。避ける事も受ける事も無理なら他のもので防げば良い」
分身を生み出すとだけ聞けば、強力な技術だと思えるだろう。だが、強力なもの程に制約はありもので、先ずはネズミサイズしか生み出せないこと。
それに、この技術使用中、本人を含めシリーズ系の技術を使用不可になることの2つが制約となる。
『クっハッハハハ、それがどうした?それでは、その場から動けないではないか』
「そう思う?」
チューチューチュー
『なにっ!』
「なにもリンカの傍から出現するとは言ってないよ?」
いつの間にか、ウルフ・ロードの近くにリンカの分身が数匹足元にいた。
『このっ!』
足で踏み潰そうともすばしっこい分身には、一向に当たる気配がない。
チューチューチュー
『ぶほへあっ』
本来のネズミとは思えない程に超跳で、ウルフ・ロードの顔面にアッパーカットをお見舞いして吹き飛んだ。
後ろへ転びそうになり頬を押さえながら信じられないと分身達を見つめる。
本人と同等かそれ以上の腕力は持ってるようだ。それに加えて、小さいのが厄介。攻撃が当たり難くてイライラする事、間違いなしだ。
『なんという腕力を持っているのだ』
「それだけじゃないよ?」
『うおっ!』
分身が技術をしようした事にウルフ・ロードは驚愕した。それも一匹だけではない。
それぞれ違う技術を使用している。
本来なら1回につき1種類しか技術は使用できないはずだが、分身は複数いるため違う技術が使える。
これでは、雷を落とす余裕がない。何気に速く防御と回避に徹しないと殺られそうだと逃げの選択を取るウルフ・ロード。
「逃げるの?」
『ここにいたら不利だ。逃げさせて貰う。火の法【煙玉】』
ボン
ウルフ・ロードの姿を隠す程の煙が舞い、数秒後晴れるとウルフ・ロードは何処にもいなかった。
「まるで忍者。でも、逃げても無駄」
チューチューチュー
「あのワンちゃんを探して」
この世界にいるのは確かだ。まだ気配は感じるが、上手く隠れてるのか?正確な場所までは分からない。
1番最悪なのは、この世界に置いてけぼりにされる事。だが、どちらかが死ぬまで出られないと言っていた。
その言葉を信じるなら安心と言えよう。
「何処にカクレンボしたのかな?」
出来れば、この技術は使いたくなかった。何故なら、自分自身で戦いたいからだ。大抵、分身達で勝ってしまう。
解除しようにも敵を一掃しまうまで止まらない。いや、自分以外の生きとし生ける者を食い殺すまで止まらない。
だから、仲間がいる所では使えない。むしろ、使ってはダメなやつだ。
止める方法は、分身達が満足するまで待つしかない。リンカでも止められない。
でも、幸か不幸か?ここにはウルフ・ロードしかいない事が吉となっている。
多少ならリンカの言う事を聞いてくれるし、肉壁になってくれる。これが魔物の大量発生であるスタンビート並であったなら、そちらに気を取られ全く命令を聞いてくれなくなる。
「んっ?発見した」
チューチューチュー
「あそこかな?」
分身達が集まってる場所に行くと、ウルフ・ロードが最後の抵抗をしてるように分身達と戦っていた。
『このっ!執拗い。一匹一匹は小さいが、纏まったところを殺れば当たる』
「頑張ってる?」
『キサマ!良くもワレにけしかけたな』
話してる暇があるなら分身達の相手をしてた方が良いのでは?早く倒さないと、完璧に分身の波に飲まれ食い尽くされて骨も残らなくなる。
『くっ!この』
「うん、やるぅ」
『キサマも傍観してないで掛かって来い』
「それはヤダ」
分身達の間に入りたくない。これが、技術の最大のリスクと言えよう。
分身達の食事の邪魔をすると、リンカ本人も襲われる恐れがあるのだ。




