SS1-69、帝国の三勇者~拳vs犬~
「土の聖拳ガイア【加重岩拳】」
『土の法【破岩】』
バキバキ
「おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ」
力押しで、ウルフ・ロードを吹き飛ばした。これで、少しは効いてると嬉しいのだが。
『硬いな。逆にワレが吹き飛ばされるとは』
「はぁはぁ、どう?少しは効いた?」
平然としてる顔をしてるが、ウルフ・ロードの口元から血の雫が微かに零れる。
『ペッ、こんなのワレにダメージを入れたとアタイせんわ』
でも、少しは効いたようで安心した。リンカは、それで確信した。ウルフ・ロードもまた、必ず倒せる相手だと。
だが、直ぐに壊しては詰まらない。折角、新しいオモチャを見付けたのに、長く遊びたいじゃんか。
「アッハハハ、久し振りに楽しめそう。簡単に壊れないでね?」
『なにっ!早っ!』
さっきまでは、ただどれだけ強いのか様子見してただけ。ここからが本番で遊びの時間だ。
どうやったかは秘密だが、十数mあった距離をリンカは一気に詰め、ウルフ・ロードの懐へ飛び込んだ。
「こんなにワクワクしたの何時ぶりだろ?っね」
バキッ
間髪入れずに右ストレートを叩き込んだ。それ程、ダメージは入ってないが脅威を抱かせるには十二分だ。
『巫山戯るな。この化け物め』
「アッハハハ、酷いなぁ」
首を傾げ、ニコニコと可愛こぶる。化け物に化け物呼ばわりされて、リンカは嬉しい。
間髪入れたはずの右ストレートを後ろへ飛ぶ事で威力を殺し、それに加えて後ろへ飛ぶ瞬間、リンカの右腕の骨を折った。
「あの瞬間に骨を折るなんて、どっちが化け物なだろうね?」
『コイツ痛くないのか!』
「痛いよ?痛いけどね、この戦いが楽しい方が勝ってる」
ウルフ・ロードは引く。骨が折れてる状態での笑顔程に不気味だと思えるシチュエーションは中々ない。
でも、引いたのは本の一瞬。ウルフ・ロードも顔を押さえ、肩を震わせ高笑いをした。
『アーハッハハハハ、それこそ喰いごたえがあるものよ。さぞ、美味しいのだろうな?』
「リンカ、不味いよ?」
『ほざけ』
ウルフ・ロードが笑ってる内にリンカの右腕は完治していた。いや、ウルフ・ロードは治してる事実を分かっていた上で待っていた。
自分と同じ戦闘好きなら暴力や手足が千切れても負けは認めない。むしろ、執拗いくらいに向かって来る。
こういう輩は、どうにかして絶望の淵に立たせ心をへし折るか本当に宣言したように喰ってしまうかが有効だろう。
それに…………若い人間の女子の肉は美味い。それもか弱いよりも強者で勝気の性格をしてる方が美味い。
その条件に見事に当てはまるのが、拳の勇者リンカとなる。
ワレの口に入る瞬間が楽しみで仕方ない。
「待っててくれたの?後悔するよ?」
『ふん、手負いの獲物を追い掛け回すより元気な獲物を追い掛け回す方がたのしかろ?』
「そう。なら、少し本気を出すね」
『来てみろ』
リンカの悪いクセ。最初から全力ではいかない。最初から全力で戦ったら十二分に楽しめない。大抵、直ぐに壊しちゃうから。
「雷の聖拳スターゲイザー【雷速拳】」
『消え――――――――』
バチっと音が鳴った瞬間、リンカは消えた時にはウルフ・ロードは宙を舞っており、間髪入れずに地面へ叩きつけられていた。
土煙が晴れると、そこには地面にはクレーターが出来、地面へくい込んでいた。
「やっぱり硬いのです」
『ゲホゲホ』
手応えはあったが、何も無かったように這い上がって来た。多少打撲程度で目立った傷は皆無。
「無傷とか、ちょっと凹むのです」
『いや、効いたぜ』
「ウソをつけなの」
外見的には無傷だが、ビリビリと痺れてるようだ。物理的要素ではダメージは皆無だが、魔法的要素ではダメージは通ってる様子がある。
『次はこちらだ。ちょっとコントロールが難しいが、雷の法【雷撃】』
ゴロゴロ…………ピカーン
「なっ!」
『回避不可能。自然の雷を味わえ』
自ら生み出す電気と違い、明らかに出力が段違いだ。目で見て避けるのは先ず不可能。
回避が出来ないなら防御しようにも恐らく後型もなく焼け死ぬのが目に見えてる。
だから、防御も無理となると取れる手は限られる。自分自身以外の何かで防ぐか何らかの方法で受け流すか。
(さて、どうしようか?)




