SS1-68、帝国の三勇者~6VS6~
『分かればよろしい。それで提案なのだが、1vs1にしてやろう』
えっ?
それはこちらとて願ってもない事だが、何を企んでいるのか勘ぐってしまう。
『ただし、それぞれ違う場所で戦って貰う事になるかの。準備は良いかの?』
『何時でもいける』
『早く斬りたくて待ち侘びた』
魔王種勢の掌から目映い光が発光している。何らかの魔法か技術を行使するつもりか?!これは逃げた方が良いのではなかろうか?
『安心せい。一人一人場所を移動するだけだからの』
そう、トレント・ロードが言うと一斉に魔王種全員が目映い光を放った。あまりの眩しさに、こちらは全員目を瞑り、次に目を開けた時には全く違う場所に立っていた。
「ここは何処?」
『ここは犬の世界、お主がワレの相手か。お主とワレのどちらかが死ぬまで出られん』
リンカの目の前にいるのはウルフ・ロード。ウルフと名乗るには体型が子犬だ。撫でたら尻尾を振るのだろうか?
『何じゃ?そんなにワレを見つめて』
「いや、可愛いなぁと」
あの魔王種の中でも1番小さくモフモフしたい。筋肉ムキムキなワーウルフと比べても見た目弱そうに見える。
だが、その身体に似合わない程に内包してる魔力量が尋常ではない。少しでも魔力を感知出来るなら腰を抜かし気絶するレベル。
やはり魔王種の一角というだけはある。
『ワレが可愛いと?』
「良く言われない?」
『くっわはははは、そんな事初めて言われたわい』
まぁ魔力量から見たら全然可愛くない。
「リンカが勝ったら、モフモフしても良い?」
『そのモフモフとやらが何か分からんが、ワレに勝ったら良いぞ?好きにせい。ワレに勝ったなら…………な』
ビュンと目の前からウルフ・ロードが消えた。いや、速過ぎて消えたように見えた。
そして、目の前にウルフ・ロードの爪があった。間一髪、リンカが背中を仰け反っていなかったら、首と胴体がサヨナラしていた。
『ほぉ、良く避けたな』
今のを避けられる者なんて、どれくらいいるのだろう。少なくとも今いる中では、リンカと兄さんにメグミ位だろう。
「足裏に瞬発的に魔力を爆発させて推進力を生み出して突進したきたってところ?」
『ほぉ良く分かったな』
「リンカは目が良いから」
だから、分かってしまった。こいつは外見と似合わず強いと。【鑑定】しても魔王種と結果は同じ。
『何を笑っておる』
「リンカ笑ってる?」
ここまでの強敵は中々出会えないからなのか?自然と口角が上がってしまう。
「うん、笑っていたかも。だって、強い奴と戦うのは楽しいから」
『ふん、お主も相当壊れてるな』
「それ程でもないよ?ワンちゃんも相当だと思うよ?」
モフモフしたいと撤回したい程にウルフ・ロードの笑みが幼い子供が泣き出してしまう程に怖い。
『誰がワンちゃんじゃい。まぁいい、お前を殺してワレが更に強くなる礎になってもらうぞ』
まぁ巫山戯るのもこれくらいにして真剣にやらないと本当に殺られてしまう。
それでもつい微笑んでしまう。こんなに強い奴と戦うのは久しぶりだ。
「先ずは手始めに風の聖拳カミカゼ【疾風正拳】」
『無の法【発勁】』
リンカの神速の【風の正拳】を受け止め、弾き返した。
バキバキ
リンカの拳を手の平で受け止め倍返しで跳ね返した。リンカの右拳がバキバキに砕かれ、骨が突き出てしまっている。
「ふむ、相手の力を利用して跳ね返す技か。面白い」
『これで右腕は使えまい』
「あぁ、これ?気にしなくて良いよ?光の聖拳メタトロン【癒しの聖典】ほら、元通り」
骨がむき出しになった右手が、逆再生してるかのように元に戻って行った。その光景は、けして見て気持ち良いものではなく、ホラーゲームに出てきそうなグロさな回復の仕方だ。
『なっ!光属性だと!やはり勇者は素晴らしい。お主を食って、その力を頂こう』
「ぷっ、リンカを食うだって。面白い事を言うね。腹を壊しても知らないよ?」
『ほざけ』
ドカッガキんブシュドカドカドカン
常人には、けして追えぬ速度で殴り合いを開始した両名。傍目から見たら痛そうに見えるが2人とも引く程に笑ってる。
「魔王種って、そんなもの?」
『なんの、これしきではないわぁ』
やっぱり楽しい。見た目は、アレだけど。自分より格上の相手と戦う事は、何でこうも楽しいだろう。思わず笑えずにはいられない。




