SS1-65、帝国の三勇者~久し振りのお寿司~
やはり兄さんの料理は最高である。まさか、この世界で寿司が食べれるとは思いもしなかった。
海が近い港町では、もちろん魚は食べた事あるが生食ではない。衛生管理が行き届いている日本であるこそ魚介や卵の生食が可能となるもの。
でも、やはり兄さんがいないのは寂しい。やっぱり一緒に食卓を囲みたかった。
「うほっ、なんだこれ!」
「うまぁっうまぁっ」
「リンカのお兄さんは、お寿司も握れるんですね。高級寿司となんら遜色ありません」
「あちらで先輩の料理をご馳走して貰った事ありますが、まさか寿司まで握れるとは知りませんでした」
シャリに適度な空気が入っており、口に入れた途端崩れ噛まずとも溶けるように飲み込める。
それ故にネタとも絶妙に口の中で融合し合い、日本出身の地球組には堪らないご馳走となっている。
「ほら、アクア食べてみろよ」
「ジャックも食べてもいいよ?」
メグミとリンカの勧めに躊躇いしつつも勇気を振り絞って口に放り込んだ。
そうするとどうだ?予想を遥かに超える美味さに頬が蕩けてしまう。
「なんだこれは?!リンカの姉御、これは一体?」
「これは、お寿司。リンカの故郷の伝統料理の1つ」
俺……………ジャックは猛烈に感動している。リンカの姉御の故郷の味が味わえるなんて!
魚介の生食なんて生まれて初めて食べるけど、これらは絶品だ。この白い米というのに乗せているだけに見えるから俺にでも作れそうだ。
「ジャック、1つ忠告してあげる」
「はい、何でしょう?リンカの姉御」
「お寿司を甘く見ない方が良いよ?これを作れるようになるには10年、20年と掛かるから」
そ、そんな馬鹿な!こんな単純な料理に見えるのに、そんなに修行が掛かるのだと!とてもじゃないが信じられない。
「リンカの兄は料理の天才だな。オレにもあんな兄貴が欲しかったぜ」
「それっ、分かるぅ」
チラッチラッ
「兄さんは、あげないよ?」
「欲しいと一言も言ってないぜ。あぁ、そうか!リンカは、お兄ちゃん大好きっ子だから過剰反応してるのか」
「リンカ、お兄ちゃんっ娘だからねぇ」
「ねぇ、死にたいなら死にたいと言ってもいいよ?ニコニコ」
バチバチ
リンカとメグミの間に火花が散る。今直ぐにでも殺し合いに発展しそうな空気。誰かが止めないと、ここら辺が火の海と化してしまいそうな雰囲気が漂ってる。
「おいおい、ココアの姉さんあれを止めないで宜しいので?アシュの姉さん、いつの間にこちらへ」
「いつもの事です。脳筋な2人ですが、時と場を弁えてる頭は持ってますよ。それに、あの2人のケンカには巻き込まれたくないからね」
「おい、聞こえてるぞ、ココア」
「ココア?リンカを侮辱した?」
2人の殺気がココアに向かう。常人なら2人の殺気に当てられて気絶してる。だが、ココアは2人の殺気を微風の如く、受け流している。
パンパン
「それよりも明日早いんだから、もう寝ましょう。アクアとジャックは解散。それとも女の園で寝ますぅ?」
ニコニコ
「いや遠慮しとく。おいアクア行くぞ」
「分かった」
男子陣は、大人しく自分の部屋へ戻った。いくら俺がAランク冒険者でもリンカとメグミの殺気を、まともに喰らうのは御免こうむりたい。
こう実際は刺されてないが、グサッグサッと鋭利な刃物で刺されてるような感覚に陥った。
もしも、あの中で戦うなら一瞬で殺られてる。あの3人の中で1番華奢だと思われるココアでさえ敵わないのは身に染みている。
それに今日出会った森精族の勇者であるアシュリー・ミラー。リンカの姉御や他の2人と同じ勇者であって見ただけで分かった。
こいつも化け物だと。俺が逆立ちしても敵わない。顔には出してない積もりだが、ギルド内で身震いしてしまった。
「俺は足手まといじゃないだろうか?」
ボソッ
「グルっ?どうした?ジャック」
「いや、なんでもない」
とっとと寝よう。明日、寝坊したら何を言われるのか分かったものではない。もしも、寝坊したというものなら当分の間は弄られるに違いないと思った。




