248食目、ぬか漬け定食
「ご用意出来ました」
豪華なテーブルには不釣り合いの質素な料理が並んでいる。それらを見て激怒されるかとミルクは、ドギマギと震えていた。
だが、予想は良い方向へと裏切られ無言のまま席に着くニブル王陛下とその家族。
「では、ご説明させて頂きます」
先ずは主食であるご飯、昨日お寿司のシャリにも使われた食材の楽園産のお米が使われている。炊き方も竈で、じっくりコトコト炊き上げ1粒1粒立ちツヤが輝いてる。
次に味噌汁、具材はシンプルにワカメと豆腐にした。どちらも植物由来で森精族には問題ない。
味噌をとぎ入れる前に出汁を取ったのだが、これが食材の楽園に生えていた鰹節から取った出汁だ。
そこに味噌を入れ、最後にワカメと豆腐を入れてから数秒後、火から下ろす。
3品目は、食材の楽園に花のように咲いていた鶏の卵らしき卵から作っただし巻き玉子だ。
巻く際にミルクから絶賛の歓声が挙がった。料理人足る者、これくらい出来なくては料理人じゃないと言いたいが、ミルクの場合は呪いのせいで料理を満足に行えなかったから仕方ないといえる。
だし巻き玉子の出汁は、昆布と鰹節から取ったものだ。両方とも食材の楽園に生えてたもので、旨味が半端なく抽出出来る。
4品目は、各野菜のぬか漬けだ。漬けた野菜は、キュウリ・大根・カブ・ナスというメニューとなっている。
ナスだけ綺麗な紫色を出すため、鉄の釘を一緒に漬けて置く。そうする事で、新鮮な時よりも鮮やかな紫へと変貌する。
糠床から取り出した後、丁寧にぬかを洗い1口サイズに切り分け盛り付ける。日本人からしたら見慣れた光景だ。
「うむ。どれ、頂こう」
ニブル王陛下が我先にと箸を器用に使い、カブのぬか漬けを1口パクリと口に放り入れた。
パリポリパリポリ……………ごくん
今度は、キュウリのぬか漬けを箸で取り口に放り入れるとご飯を、お茶碗半分ほど掻き込み、ゴクゴクと味噌汁を啜った。
「なるほど。野菜には飽き飽きして毛嫌いするほどであったが………………これならば、いくらでも食えそうじゃな。ほれ、何やっておる。お前たちも食ったらどうだ?」
「「「………………!!」」」
パリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリパリポリ
野菜のぬか漬けが噛まれる度に大合唱が鳴り響く。料理人としては心地好い音色だ。
「ぬか漬けは、作り方を教えたのみで私自身が作った訳ではありません。このお城に仕える執事やメイド達が作ったものであります」
「なんと?!我々、森精族でもこんなに美味しいものが作れるというのか!」
漬け物が料理といえば料理といえるし、料理じゃないといえば料理ではない。保存食や発酵食、味噌やお酒のように元の食材から形が変わるものもあれば、ぬか漬けやキムチのように形はそのままで、野菜の本来持つ味や食感を引き立たせる方法もある。
「えぇ、森精族に根深く鎖のように巻き付いた呪いには私でも対応出来ませんが、このように私でなくとも作れるものがあるのでございます」
これで俺がいなくとも森精族の食事事情は多少なりとも改善出来るだろう。
「もう1つ、王命として加えて良いか?」
「えっ?」
俺、何かやっちゃいました?
「ぬか漬けと言ったか?このぬか漬けのように我ら森精族でも作れるような美味なものをご教授して欲しい」
「えっ!でも、それは」
地味に物凄く考える以上に大変な事ではないか?まだぬか漬けだから簡単なだけであった。
材料が揃えば、後は時間が進むに連れて糠床の塩気で水分が抜け、定期的に掻き回す必要はあるが、自然と出来るもの。
だが、本来の発酵というのは目に見えない菌を探すところからだ。発酵の発見の歴史は、どれも偶然が重なっただけに過ぎない。
この世界に菌がいるかどうかに掛かっている。まぁぬか漬けが出来てる時点で、多少なりに希望は持てる。
「分かりました。やってみましょう」
「おぉ、やってくれるか」
「ただし、絶対とは言えません。私の世界で出来たといって、異世界で出来るては限りませんから」
だから、先ずは発酵に必要な菌探しだ。他の任務と並行で探していくしかない。




