247食目、野菜のぬか漬け
王城で働く従者の朝は早い。もちろん俺の朝も例外なく早い。まぁリンカ達は、まだ寝てるであろうが。
料理人足る者、仕込みをしっかり出来ない者は料理人失格だ。仕込みがダメだと、完成された料理もダメとなってしまう。
「カズト様、今日の朝は何をお作りになりましょう?」
「実は半分くらいは、もう出来ているんだ」
王城内にいる執事やメイド達に手伝って貰った。
膝くらいのツボに米を精製する時に出来る米糠を引き詰め、味噌ほどの柔らかさになるまで塩水を入れ、適度にかき混ぜたら糠床の完成。本来なら1晩から1週間ほど育てた方が良い。
だが、流石は異世界。半日ほどで理想な糠床が出来上がり、野菜を漬けられるまでに至った。それも序の口である。真に驚かされる事になったのは野菜を漬けた後。
最も早くても野菜を糠床に漬けてから一昼夜掛かるが、ほんの1時間程度で良い具合に野菜の水分が浸透圧により抜け、しんなりと柔らかくなり、身がギュッと引き締まっていた。
「ミルクも食べて見るか?キュウリのぬか漬け」
糠床から取り出したばかりのキュウリ。米糠を洗い、薄く輪切りに切っただけのシンプルなもの。
「いただきます」
ポリポリシャキシャキ
「これが、野菜なのか?!」
あまりの美味さにミルクは驚愕した。余計な水分が無くなり、今まで奥底に潜んでいた旨味が一気に表へ出てきたような感覚だ。
日本人のカズトからしたら懐かしい味に加え、神樹の恵みにより新たな味に進化している。これは、もうカズトが知ってる野菜のぬか漬けではない。
適した言葉が見つからないが、敢えて言うならば……………真・ぬか漬けと言ったところだろう。
これで、ご飯が何杯でもいける。お茶漬けにしても良いし、普通に料理に加えても良い。
「他にも種類はある。それに、作る側からしたら嬉しい副次効果がある。それは、手がスベスベになることだ」
日本で良くぬか漬けを買っていた商店のおばちゃんの手はスベスベであった。
「それはそれは、ご婦人にしたら嬉しいですな」
「そうだろそうだろ」
詳しい原理は知らないが、米糠の発酵でアミノ酸とかが作られ、それらがスベスベにしてくれるらしい。
まぁ発酵という過程がある以上、臭いが発生する訳で、その臭いが苦手な者もいる。俺は好きな臭いだ。
「後は味噌汁とご飯を炊き上げれば、朝食の出来上がりだ」
昨日に比べ質素だが、食材の楽園の食材を使用してる以上、見た目より中身は数倍豪華なラインナップとなっている。
「味噌は、一から食材の楽園で取れた豆を使って作ってある」
一応、料理人なら調味料の作り方も知識として頭に入っていなきゃならないと俺は思ってる。
【異世界通販】で味噌は買えるが、良い食材が手に入る環境にいるのだから作らなきゃ損損というものだ。
だから、作ってみたが、やはり異世界産な食材だからか?それとも食材の楽園が特別なのか?
昨日、仕込んで置いた味噌が、もう発酵終わって出来ていた。普通、自然発酵で10ヶ月、機械を使っても3~5ヶ月は掛かる。
試しに味見してみたが最高峰・最高級品に近い味になっている。これ程の味噌を作れる倉は日本でも指の数しかない。
「米も言わずもながな、ここには美味しい水もあるし、おそらく美味しい酒も作れるはずだ」
「お酒ですか?」
お酒にも様々な材料があるが、米と綺麗な水を主な材料とする日本酒。透き通った様は、まるで水のようで1回味わうと、その清涼感で心の汚れが洗われるように感じる。
まさに日本が生み出した芸術だろう。それが、もし食材の楽園産のお米で作ったら、どれだけ美味な日本酒が出来るのか想像出来ない。
おそらく、俺なんか頬が蕩けて変な顔しそうで逆に怖いと思っている。
「俺の故郷のお酒だ。もし作れたら、お前にも飲ませてやる」
「お酒は、そこまで強くないのですが、カズト様が仰るのであれば試してみましょう」
味噌が出来たんだ。必ず日本酒を作れるはずだ。ここは日本や地球ではない。ファンタジーで溢れてる異世界という世界だ。




