SS1-64、帝国の三勇者~神樹の料理店~
アシュリーに案内されて到着した料理屋も他の建物と同様、神樹から生えてるが料理屋と分かるような風貌をしている。
店内からは美味しそうな匂いが漂い流れて来て食欲を刺激され、今にでも腹の虫が大合唱しそうである。
「早く入ろ早く入ろ」
「そんなに慌てなくても料理は逃げませんよ」
チリーン
「いらっしゃいませ。これはアシュリー様、当店にご来店頂きありがとうございます」
「そんなに畏まらないでちょうだい。今日は、ワタシの同胞が来たから案内してるだけよ」
「そうで御座いましたか。さぁ席にご案内致します」
店内はパリやヨーロッパにありそうな雰囲気の店構えであるが、やはり神樹から生えてるだけはあって全てが木造である。
ただ照明だけは光の精霊によって点灯しており、まず日本では味わえ無い光景だ。
「こちらになります。メニューがお決まり次第、お呼び下さいませ」
「良い雰囲気のお店」
「まぁ金属臭いところよりはマシだな」
「パリでライブ公演をした際に寄ったお店が、こんな店内でしたわ」
「ギルドもそうだが、神樹は凄いと感じるぜ」
「お気に召して良かった」
テーブルに置いてあるメニューを開くと、フリーヘイムではといより異世界全国で、ただ1箇所を除き珍しい料理の名前が並んでいた。
「どう?懐かしいと思わない」
「ちょっと待て!何でこんなメニューが、ここにあるんだ?」
「兄さんなら作れそうだけど、そもそも森精族は野菜や果物以外は食べれないはず」
「それもそうですね」
リンカが最もな疑問を口にした。森精族を全然見た事のない者でも植物由来のものしか食べないと知ってる程に有名だ。
それに森精族は、料理が出来ないと。
「それは、ここ神樹で取れたものだから。正確には神樹の中というべきね」
「神樹の中?」
ここが神樹の森内なのだから神樹の中なのでは?とアシュリー以外、首を傾げた。それにシチューやカレーライスにハンバーグ等がメニューに書かれており、これらが神樹の中で採れたとは謎が深まるばかりである。
「ワタシも入った事ないの。神樹に選ばれた者しか入れない事と様々な食べる事の出来る植物が自生してる事だけ。まぁ後は出て来てからのお楽しみで」
リンカはハンバーグ定食、メグミはカキフライ定食、ココアはビーフシチュー、アシュリーはカレーライス、ジャックはオムライス、アクアはハンバーガーセットを各々注文した。
注文してから数分後、運ばれて来たものは予想外のものであった。それは何かの大きな果実に見える。
大きさは顔面くらいあり、メニューにより形は様々。どう食べるのか?躊躇していると、アシュリーが馴れた様子でパカッと上半分を蓋のように持ち上げ割れた。
「中身に注文した料理が入ってるわ」
そてもシュールな光景である。果実の中身が料理になっているとは誰が予想するだろうか?
「何とも不思議な感じねぇ」
「これは【異世界料理の実】と言って、神樹の中でしか取れない果実の1つよ。意外と貴重な実だから限られた店しか扱ってないの。神樹で採れたから、ワタシでも食べれるのよ」
恐る恐る口に運ぶリンカ達。果実の中にありながら、ちゃんと温かくちゃんと美味しいが、何処か冷めた様な感じしてならない。
「これはこれで美味しいが」
「えぇ心がこもってないと言うか」
「うーん、何と言えば良いか。姉御の兄貴よりは格段下がるような」
「兄さんの方が美味しい」
「カズトの方が美味しい」
「やはり、そうですか。魔法大国マーリンで食べた先輩の料理は格別でした」
全員一致で、やはりカズトの料理には敵わないという判決になった。仮にも神樹が生み出した果実に勝てるとは、実妹であるリンカは誇りに思っている。
「また、カズト先輩の料理が食べてみたいものです」
「アシュ姉が良かったら一緒に来る?」
「そうだな。カズトの知り合いなら大歓迎だ」
「えぇ、みんなで食べる方が美味しいですもの」
「ありがとうございます。また、カズト先輩の料理が食べれるなんてまるで夢のようです」
大袈裟に聞こえるが、まさにその通り。カズトの料理を食べた者が、他の料理を食べると何処か物足りなさを感じてしまうのだ。




