SS1-63、帝国の三勇者~弓、パーティに加わる~
「ワッハハハハ、見てたぞ。流石に勇者なだけあって強いな」
「それ程…………あるかな」
「あるのかよ」
冒険者ギルドの地下訓練室から戻ったリンカ達に声を掛けたのはギルドマスターのフォルンだった。
「ギルマス」
「おぉ、アシュリー殿」
「止めなかったのはワザとですね」
「ビクッ、アシュ姉!」
アシュリーの笑顔に恐怖を覚えたのはリンカだけではないらしい。メグミも少し後退りしている。ココアと似た怖さだ。
「何の事かな?我は、これぽっちも拳の勇者の強さを、この目に焼き付けたいと思っていないよ?」
「思いっ切り思ってるじゃありませんか!」
アシュリーの怒りに微動だにしないギルマスのフォルンは、この状況を楽しんでるように見える。
「考えてみたまえ。彼女らは、森精族にとって部外者で招きざる客に等しい。その彼女らを簡単に認めさせるには強さを見せ付ければ良いと思わなかい?」
「それは…………」
「リンカは戦えて満足」
「ほら、こう言ってる訳だし」
ガシッとリンカとフォルンは握手を交わし、お互いにこちらが引く位に笑い合っている。
「まぁ少なくともあの戦いを見てた者達は認めつつある」
周囲を見てみると、最初とうってかわって殺気や奇異な視線は無くなり、その代わり何処か尊敬よりも神を崇拝するような視線が集まってくる。
「これで任務の遂行に障害はないだろう」
森精族は、基本的にプライドと縄張り意識が高く神樹の森全体に入った他種族を良く思わない。
だが、1回認めさせる事が出来れば、180度態度が変わり悪く言えば掌返しだろうが、羨望な態度へと早変わりする。
殺気から急にこんな視線を向けられて、何処か痒くなってくる。これから逃げるように任務に出発しようとした。
「さてと魔物討伐に出発するか」
「いこ」
「ハァハァ待ってくれ」
リンカ達を呼び止めたのはリンカに負けたジュランだった。身体中に包帯が巻かれ重体だと見て取れる。
「オレに案内させてくれないか?」
「そんな身体で足手まとい」
「そこをどうにか」
「ジュラン今回は諦めなさい。その代わりにワタシが一緒に着いて行きます」
「ぐっ…………アシュリーがそう言うならしょうがねぇ」
ジュランには悪いが大怪我して良かったと内心思ってる。日本にいた頃なら兎も角、異世界に来てからカズトの実妹と一緒に行動するチャンスなんて中々訪れない。
下手に国を離れては国際問題になってしまうし、最悪不敬として捕まる可能性もある。
「アシュ姉良いの?」
「王命で動いてるのでしょ?それならワタシが同行しても問題ないはずよ。それに国王陛下からも『よろしく頼む』と言われてますし」
『弓の勇者アシュリーよ』
『はっ!お呼びでしょうか陛下』
『そなたもご存知であろう剣の勇者殿が、その内来られるのだ。周りの世話を頼めるか?』
『はっ!この弓に誓いお引受け致します』
まさか、こんな早く来るとは思っていなかった。なにせ森精族は長命なため時間間隔が人間とズレてる。森精族の少しは1年先か10年先なんてざらにある。
アシュリーがいなかったら魔法大国マーリンへ到着するのは、かなり遅れていたかもしれない。
「ワタシもリンカと会えて嬉しいのよ。こうやって一緒に冒険をしてみたかったんだから」
「リンカも」
「オレ達を忘れていないよな」
「忘れられてたら悲しいです」
「リンカの姉御がそんな薄情な事するわけないっすよ」
「う、うん。ワスレテナイヨ」
目が泳ぐリンカ。これは忘れていたなと全員が悟る。
「それでアシュ姉、これから行くの?」
「今からでも良いけど、フリーヘイムを見て回ってないでしょ?美味しい料理屋もあるわよ?」
「いくぅ」
「それじゃぁ決まりね。あなた達もそれで良い?」
「良いんじゃないか?」
「私もそれで」
「姉御の決定に従います」
「ご主人様が行くならオレも行く」
アシュリーによるフリーヘイム観光ツアーの開幕となった。神樹の森フリーヘイムは文字通りに自然と共にあり、自然と共に生きて行く国だ。
それ故に建物から道に至るところまで神樹からの恩恵が見て取れる。神樹の中にあるお城はもちろんの事、住民の家全てが神樹から生えており、まるでカマクラを木材で作ったような造りとなっている。
「これが全て神樹から生えてるとか信じられないぜ」
「ワタシも最初は信じられなかったです。あっ、あれが料理屋です」




