SS1-62、帝国の三勇者~リンカ、脳筋森精族をぶっ飛ばす~
投げられ地面に落ちた衝撃で息が出来なかったが、リンカは余裕な態度で待っててくれたらしい。
「ハァハァ、余裕そうだな。待ってくれるとは」
「だって、弱い者イジメになっちゃうでしょ?」
自分より数倍若いリンカにそう言われて怒らない森精族はいない。それだけプライドが高い。
「言ってくれる。そうやって余裕そうな顔を潰してやる。土の精霊よ、我に更なる力を与え給え。土精霊魔法【筋骨隆々】」
更にムキムキになりやがった。生半可な攻撃では逆にリンカにダメージがいってしまう。
だが、組手して1つだけ分かった事がある。近接なのは見た目だけで、武術などは素人だ。ただ力任せで拳を振るってるだけだ。
「おらぉおらぁ」
拳1つで地面を叩き割り隆起させる。あれをまともに受けたら、リンカでさえもタダでは済まない。あれを受けるのはもちろん受け流すのも至難な業だろう。
だが、その至難の業を難なくやってのけるのがリンカという武術家なのだ。
「逃さん」
「また、力技?懲りない」
「ふん。これを受けて無事に済んだ者はいない」
速さも増してる。ほんの数分前まで中々引き剥がせなかったのが更に速くなるとは本来なら嫌になる。
たが、一向にリンカとの距離が縮まらない。それに時折、リンカの姿を一瞬だが見失う時もある。
「どういう訳だ?!」
自分の方が速いはずなのに追い付けずに、あわよくば見失う時がある。この現象に流石に筋肉脳なジュランでも気付く。
「遅くなっちゃんじゃない?」
「そんな訳あるかぁ」
修羅場を潜り抜けた武術家は、なにも攻撃や防御だけが優れてる訳じゃない。時には回避や逃げ足に重点を置く時がある。
別にリンカが速くなった訳じゃない。ジュランの方が断然に速い。だが、リンカの独特な足捌きによりリンカの方が速いと錯覚してるだけに過ぎない。
「ほら、ここだよ?」
「くぅっ、くそっ!」
もうジュランの間合いを見切ってるリンカには、けして当たらないし、たまにそこまでダメージは入らなくともジュランのパワーを利用してカウンターを喰らわしている。
それがジュランにとって嫌がらせだと分かった上でだ。イライラが募って怒りが爆発したところを撃沈した方が面白いが、もう単純作業みたくなってきて段々と面白味が失せて来た。
「なんか詰まらなくなってきた」
もう結果が分かってる試合を見ても何の面白味はない。それと同じようにジュランの戦いも自分が勝つ事が確定してしまった。
だけど、手を抜く事を知らないのがリンカ。
「今から少し本気で放つから痛かったらゴメンね」
「何を言ってる?この肉体に傷つける術はなし」
そうは言うが、カウンターで吹っ飛び転ばしているから端から見たらボロボロに見えてしまう。だけど、ダメージは微々たるもの。
「そう、なら行くね。【螺旋双龍拳】はぁぁぁぁぁ」
いくら筋肉を頑強にしてもそれは外だけの話。内蔵を鍛えられないように内面までは頑強には出来ない。
それは魔法にもいえること。魔法で外を強化出来ても内は強化出来ない。
「グハッ!こ、これき………しで」
リンカの両腕に竜巻の如く渦巻く風。それをジュランの懐に入り腹に叩き込む。ただの打撃じゃない。螺旋回転させた打撃、内面にも多大なダメージを行き渡らせる。
いくら外面を強化しても内面を破壊されたら意味がない。いわゆる防御無視した攻撃。ジュランに耐えられるはずもなく、その場で膝をつき、バタンと前のめりに倒れた。
「リンカの勝ち」
ココアがリンカの勝ちを宣言する。大抵の森精族は信じられない光景を目の当たりしたような表情で言葉が出て来ないようだ。
「リンカやったな」
「はぁー、ジュランのバカ。こうなるから止めようとしたのに」
「まぁ良いじゃねぇか。これで、あのジュランっていう森精族も分かってくれただろう」
「それもそうね」
回復が得意な森精族がジュランの下へ駆け寄り回復させている。
「勝って来た」
「手加減してただろ?」
「リンカ、手加減知らない」
「ウソをつけ。リンカならもっと早く終わらせてたはずだ」
リンカがウソをつく際のクセは、相手の目を見ないで視線が泳ぐ。誰にでもあるようなクセだが、リンカの場合はそれが顕著に表れる。




