SS1-61、帝国の三勇者~リンカ、脳筋森精族に鉄拳制裁~
どの冒険者ギルドにも地下に練習場はあるようでリンカ達は、今そこに来ている。
リンカに難癖をつけたジュランとその知り合いである弓の勇者アシュリーの他にも野次馬が何人も見に来ている。
「リンカちゃん」
「アシュ姉、リンカの心配はせずとも大丈夫」
「それはしてないけど…………」
チラッとアシュリーの視線はジュランに向いた。むしろ、アシュリーの心配はジュランにある。リンカに死ぬよりキツくボコボコにされないか心配なのである。
「準備は出来たか?チビ」
あんなにリンカの殺気にビビってたクセに今ではもう、嘗めてるような態度。良い度胸だ。ボコボコのケチョンケチョンにしてやろう。
「そっちこそ、負けた時の言い訳でも考えた?」
森精族ぽくなく上半身脱ぎ捨て自慢の筋肉を見せ付けて来てる。兄さんの筋肉ならリンカも魅入ってしまうが、その他の筋肉を見せられても何も思わない。
「はぁ、私が審判やるから致命傷になる攻撃は禁止。相手が降参したら即座に止める事。良いわね」
「おぅ」
「良いよ」
「では、始め」
本来なら森精族の得意武器は弓なのだが、ジュランは何も武器は持たず上半身裸で、何処かの拳法家みたく構えている。
「土の精霊よ、我が名によって命じる。我が体を強靭にせよ」
キラーン
筋肉が鉄みたく光を反射した。いや、筋肉自体が鉄と化してるみたいに見える。
「ずいぶんと硬そう」
「ふん、俺は土属性が得意でな。こうやって硬化して戦うのだ。もうチビにダメージは与えられないと思った方が良い」
防御が硬くなる代わりに遠距離の魔法を使えないと見た。なら、こちらは遠距離で攻撃を放てば良いが、リンカも近距離戦が得意な部類に入る。
「風の聖拳カミカゼ、リンカは準備出来た」
「行くぞ」
ジュランがリンカに向かって来る。土属性は防御が上昇する代わりに鈍足になりやすいが、ジュランはその傾向は確認出来ず、むしろ予想以上な速度でリンカの距離を詰める。
「おらぁおらぁ、どうした。そんなものか」
「硬くて速い」
引き剥がせない。受け流しながら隙を探すが、中々見つからない。まともに受けたら腕が痺れそうだ。
「【巴投げ】」
「グハッ」
引き剥がせないのなら、逆に相手の力を利用するのもまた一興。ジュランが、シュッと強打するために右手ストレートし腕が伸び切ったところを勢いを殺さず、リンカが背中側に倒れ込むよう受け流し、そのまま宙に投げた。
5m高く空中へ急に投げ出されたジュランは、上手く姿勢が保てず、そのまま背中から地面に激突する。
常人ならこれでKOになっているはずだが、流石は土の精霊により強化されてるだけはある。
「あのジュランが投げられた?!」
「あの人間は一体!」
「まぁ当たり前よね。あのカズトの妹なら」
カズトという名前に野次馬として観戦していた森精族達が、ギョッとした驚愕の表情でアシュリーを見た後にリンカへ視線が注がれる。
「その話は本当なの?!」
「あらっ、ミリー来てたの。えぇ、本当よ」
魔王を倒した勇者として有名なのもあるが、むしろカズトが作る料理で有名になったのもある。
森精族の国王が、魔法大国マーリンで食べたカズトの料理は絶品だったと広めてしまった。
「えぇ、ワタシとカズトは同郷で幼馴染。リンカとも妹のように可愛がってたわ」
だから、リンカの強さは良く知ってる。それ故に、ジュランが負ける事を。
「なぁ、あっちではリンカはどんなだった?」
「あなたは、リンカの」
「メグミだ。槍の勇者をやっている。カズトから聞いたぜ。弓の勇者だってな」
「そうねぇ、リンカはカズトを追うように武術を始めて、めきめきと頭角を現していったわ。カズトに褒められたいがために」
「リンカらしいな。リンカはお兄ちゃんっ子だからな」
リンカが、もし負ける事があるとしたら…………それは、カズトにだ。それ以外は考えられない。だけど、2人が本気で戦う事は、この先ないとアシュリーは思う。
何故なら、お互いにシスコンとブラコンだからだ。だが、その反面、どちらかが危機的状況に陥った時には予想がつかない程の強さを見せるつけるだろう。
「それで、どっちが勝つか賭けるか?」
「それ、賭けになってないわよ?」
「それもそうだな」




