243食目、フリーヘイムの料理長
俺は今、神樹の中にあるヘイム城の厨房にいる。話は通っているようで簡単にヘイム城の料理長が、この場を貸してくれた。
「お初にお目にかかります。ワタクシ、ヘイム城の料理長であるミルクと申します」
「これはご丁寧に。私は…………」
「カズト様ですよね。お会い出来て光栄です。料理の勇者に会えるとは」
ここまで、その呼び名が伝わっているとは思いも寄らず若干恥ずかしい。
「料理長と言っても名前だけです。なにせ炎が使えないのですから。ただ野菜を切って、ドレッシングを掛けるだけですから」
「それは…………」
料理とは言えないと口から出るところであったが、思い留まった。料理人として炎を扱えない事は相当悔しいだろう。
だが、それでも仕えてる主に毎日提供するのは予想以上に覚悟が必要だ。だけど、それでも救いなのがミルクに技術としてレベルが高い【調理】を持っている。
それだけに惜しい。こんな高い【調理】技術を持っているのに炎が扱えないなんて。この人の本気な料理を見てみたい。
「分かっております。炎が扱えないなんて料理人失格ですよね」
「いや、そうとも限らないかもしれません」
「えっ?それはどういう…………」
ミルクの本気で作った料理を見てみたいと思った瞬間、俺の聖剣が共鳴するかのように震えた気がした。
いや、気の所為ではない。これは新しい技術の発言だ。だが、凄く限定的で、恐らくこの場面しか使われないであろう技術。
だけど、今使わないでいつ使うんだ。今しかない。
技術名:呪い切り
その効果とは、名前の通り呪いを切って無効化にするというものなのだが、その効果対象として料理人か技術で調理を持ってる者のみという限定的な技術となっている。
だが、ちょうど良い。ミルクは【調理】技術を持っており、料理人なのだから。
「俺を信じてくれ」
「何をやるか分かりませんが、信じましょう」
「では、行くぞ。料理の聖剣エックス【呪い切り】」
一見、ミルクを切り裂いたように見えるが一切の切り傷はない。カズトが切ったのはミルクに渦巻く料理が出来ない呪いだ。
ただし、雁字搦めになってる鎖を1つ切っただけに過ぎない。この鎖が呪いが具現化して目に見えるようになった状態で、料理の聖剣エックスの影響で一時的に見えるようになっている。
「ふぅ、済まない。予想以上に根が深い呪いのようだ。1回だけでは解けない」
「いいえ、何だか心が軽くなった気がします」
「そう言ってくれると助かる。これを1日1回繰り返せば、いずれ呪いから解放されるはずだ」
1日複数回やれば早く済む話だと思われるが、ミルクの身体が保たない。聖剣に限らず、勇者が技術聖武器から目に見えないエネルギーが放たれる。
これが常人が長時間受けると、放射線を受けたような症状に見舞われ最悪死ぬ場合がある。まぁそこまで浴びる事は普通はない。微量ならむしろ良い影響となる。
だけど、直接受けるとなると話は変わって来る。何事にもリスクは存在するものだ。薬と毒は表裏一体、薬でも取り過ぎは毒となる。毒でも少量なら薬となり得る。
そんなものだ。
「カズト様は、今から何をお作りに?」
「寿司を作ろうと思う」
「寿司?それはどういう」
「まぁ見てな」
稲穂から採取した籾を一粒ずつエックスで籾殻と玄米に分けて行く。本当なら機械に掛けた方が良いだろうが、目に見えない程の速度で、エックスの技術により正確無比に玄米を傷付けずに分かれていく。
むしろ、こちらの方が早いくらいだ。一秒間に数百の籾を処理されて、側にキレイな玄米の山が出来つつある。
「ふぅ、これくらいで足りるか」
「す、すごい」
「これほど、どうって事ないさ。かまどを借りるよ」
炎が使えなくとも一通りの道具や場所は揃ってる。随分使ってない割にはホコリは積もってない。
かまどに薪を組み火を点けて、釜に研いだ玄米を水と共に投入し蓋を閉める。
そして、はじめちょろちょろ中ぱっぱ、じゅうじゅう吹いたら火をひいて、ひと握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな、この歌の通りの火加減で炊いて行く。




