239食目、食材の楽園
「私と同行させたのは拳の勇者が、私の妹だからでございます。そして、彼女・彼らは妹のパーティーメンバーです」
「なんと!」
勇者が4人でも大事なのにその内の2人が兄妹だとは、とてつもなく確率は低いだろう。まだ勇者として召喚されて間もない頃、城にある図書室で異世界の歴史を調べた事がある。
そこには歴代の勇者の事も載っており、勇者同士が知り合いという事はあっても兄妹という事はなかったらしい。という事は初めての兄妹の勇者という事になる。
「それはお心強い。剣の勇者殿を呼んだ甲斐があったもの」
「何かあったのですか?」
俺は、フリーヘイムでも料理を振る舞って欲しいという依頼だったはずだ。それが、俺の連れが勇者だと知ると驚愕の中に安堵の想いが見え隠れしている。
「うむ、客人に対して申し訳ないと思うが、冒険者ギルドの依頼を受けて貰えないだろうか?」
どうやら神樹の森では、今現在進行形で魔物の動きが活発になっており、フリーヘイムにいる冒険者の殆どは、その対応で出払っているらしい。
「報酬は弾む」
「面白そうじゃねぇか」
「身体が鈍ってたから丁度良いです」
「リンカの姉御に着いて行きます」
「オレもご主人様に着いて行く」
「仕方ないですね」
満場一致で即決になった。国王陛下の依頼では、そもそも断れない。下手に断れば、不敬として処刑もあり得る。
「今日は、お疲れでしょう。部屋をご用意してるのでお休みになられてはどうか?依頼に関しては明日からという事で」
「お言葉に甘えます」
「おい、案内を頼む」
「はっ!」
全員が立ち上がり、玉座の間から立ち去ろうとしたら俺だけ呼び止められた。
「剣の勇者殿、そなたに機密な依頼がある」
「機密な依頼?」
何だろうか?
「ここが神樹の中だと言うのは知っておろう」
「えぇ、案内されてる時にチラッと聞きました」
神樹の中にいるのだと今だに実感が湧かないが、内面子供みたくワクワクしている。
「神樹の表の顔がヘイム城、裏の顔は全く違う役割を持っておる」
「裏の顔………ですか?」
「着いて参れ。これは王族直接でないと意味がなさん」
素直にニブル王陛下の背後を着いて行く。歩き初めてから十数分は経っただろうか?。城の地下へと続く階段を永遠と降りていく。
「ここだ」
「何もありませんが?」
目の前には、ただの壁しかない。だけど、不思議と心地良い気持ちになってくる。
それに何故だろう?前に進まなくてはいけない気がする。何もないはずなのに、何かある気がする。
「ここは?!」
何もないはずの壁を触った途端、色んな作物が育つ畑や木々が周囲に生い茂っている場所にいた。
吹く風が心地良い。実ってる果物や野菜に木ノ実などの良い匂いが運ばれてくる。
「やはり、剣の勇者殿は神樹に認められたのだな」
「ニブル王陛下、ここは一体?」
「ここは本当の意味での神樹の中だ。神樹に認められないと入る事は叶わぬ。そして、ここの名は食材の楽園と呼ばれている」
ここが神樹の中?到底信じられない。いくら神樹が巨大でも広過ぎる。いや、空がある時点であり得ない。まるで世界そのものではないか。
「神樹は植物であって植物ではない。ちゃんと意思があって生きてるのだよ」
ニブル王陛下の言葉にカズトの頭には???がたくさん浮かんでるが、今はこの光景の素晴らしさとどんな食材があるのか?ワクワク感の方が勝っている。
「余には分からんが、アグド以外の異世界の食材も自生してるらしい」
それは、つまり地球での食材があるのかもしれない可能性があるという事に等しい。
「どうして私をここへ?」
「3つ理由がある」
1つ目は、ここにある食材を使って晩餐を振る舞う事。
2つ目は、フリーヘイム独自の特産になるものを作る事。
3つ目は、食材の楽園に何か異変が起こっており、その原因を探る事。可能なら原因を取り除く事。
「異変とは?」
「それは余にも分からぬ。だが、神樹が訴えているのだ。異変が起こっておると」
まるで神樹に意思があるように言う。
「勇者と同じよぉ。勇者も聖武器と意思疎通が出来ると聞くが、それは間違いか?」
「いえ、その通りです」
何か神樹に親近感を覚えた。よし、ニブル王陛下自らの依頼だ。ちゃんと果たそうではないか。




