237食目、デュアルボアのカツ丼
「そろそろ夜営の準備をしようか」
「「「はーい」」」
キャンピングカーならこのまま進んでも良いが、馬車や徒歩よりも数倍早く進んでいる。だから、別に急ぐ旅でもない。
「今日は何を作るの?」
「何が良い?」
「カツ丼」
「カツ丼良いなぁ」
「カツ丼?食べた事ないのよね。あっちではアイドルやってたから」
「肉が食べれるのですかい」
「肉っ肉っ」
「はいはい、分かった。今作るから」
まだアイテムボックスにデュアルボアの肉が、たんまりあったはずだ。あの巨体では中々減らない。だが、アイテムボックス内は時間停止してるから腐る心配はない。
先ずはラード作りだ。熱した鍋に水を入れ、その中にデュアルボアの脂身をたんまりと入れる。最初に水を入れたのは、最初の脂身が焦げないため。
時間が経つに連れ、脂身から良質なラードが滲み出て水が蒸発する。これぞ、トンカツの匂いだ。
「デュアルボアをトンカツサイズに切って、衣をつける」
小麦粉→タマゴ→パン粉の順に付け、ラードの中へ投入。良いラードとパン粉の弾ける音と匂いが食欲を唆られる。
「よし、揚がった」
これだけでも十二分に美味しい。
揚がったトンカツを一口大に切り分け、親子鍋に俺じゃなくミミが調合した割り下と玉ねぎ数切れを入れ、火に掛ける。
少し沸騰したら切り分けたトンカツを入れ、割り下に馴染ませてからタマゴを回し掛ける。
そこから数秒、火に通すだけでタマゴがふっくらと固まる。これを丼に盛り付けたご飯の上へ滑らせるように乗せれば完成だ。
「ほら、カツ丼が出来たぞ」
「わーい」
「いやぁー、日本人に生まれて良かったぜ」
「これがカツ丼…………初めて見ました」
「「はぁぁぁぁぁ」」
ココアの言葉にリンカとメグミが驚きの声を響き合わせる。俺も唖然とし眼を大きく見開いた。
「アイドルでしたから、基本的に肉類は禁止だったんです」
「ヴィーガンかよ」
「たまにサラダに入ってる生ハム程度なら食べました」
ブラックなアイドル事務所ならありそうな制度だ。肉にも脂だけじゃなく、しっかりと栄養素はあり適度に食べないと逆に栄養失調になりかねない。
「よく今まで倒れなかったな」
「そこはサプリメントでしのいでました」
アイドルも大変なんだな。表ではチヤホヤされて、裏ではキツいレッスンや枕営業があるというが夢が壊れるようで知りたくない。
「アイドルは夢だったので大変とは思ってなかったですね」
「俺の場合はシェフだな。まぁ今が、その夢の延長だな」
「リンカは、強いヤツと戦いたいのが夢」
「それ夢か?」
「オレは…………お嫁さん…………だな」
「「「……………」」」
「おいっ、何とか言えよ!恥ずかしいだろ」
スルーしてカツ丼を食べる。ヤバい、自分で作っといて何だが旨い。地球での豚肉とは一口も二口も違う。先ずは脂が濃厚で且つ深みがある。
それに柔らかい。地球産のどの豚よりも柔らかい。まるで牛肉のようだ。割り下も肉の中に十二分に染み渡り、肉汁と合わさり奥深い味わいになっている。
「どうだ?旨いか?」
ガツガツ
「うめぇ~うめぇよ。さっきの恥ずかしさがどっかに吹き飛んでしまった」
「魔物肉でも瞬時に調理してしまう。流石は兄さん」
「これが…………カツ丼ですか!高級ステーキ肉と比べても味が段違い」
「これが肉だと!」
「うまっうまっ」
「お代わり」
ものの数分で平らげたリンカをかわぎりにお代わりコールがやまない。俺もちょうどお代わりするところであった。こんな旨いカツ丼なら何杯でも行ける気がする。
「はいよ、追加のカツ丼出来たよ」
「「「「「ハグハグ」」」」」
やはり丼ものの醍醐味といえば、箸で一気に掻き込んで食べる事だろう。それに異世界に来てからというものの、地球にいた頃よりも食欲が増加してる傾向がある気がする。
ちゃんとした自覚がある訳ではないが、勇者の強力な技術を精神力を使うが、カズトは大量なカロリーも必要だと考えている。
そうじゃないと、地球から異世界に来て食欲が増すっておかしいはずだ。
でも、それを確かめる術がない。もし知ってる者がいれば女神くらいしかいない。




