236食目、自動車
魔法大国マーリンから帰って来て、およそ2週間の時間が経った。その間は、カズトらはひたすら料理を作っていた。リンカらパーティーは古都のギルドにて依頼をこなしていた。
「ようやく来たか」
国を跨がると時間が掛かる。森精族の国である神樹の森フリーヘイムから正式な依頼が冒険者ギルドを通して通達された。
何処の国にでも必ずある冒険者ギルドを通さない依頼だと後々面倒臭くなる。9割方トラブルに合うと言っても過言ではない。
「行くメンバーはどうするか?」
俺は名指しで指名されている。
「リンカ、兄さんに着いていく」
「リンカが行くならオレらもだよな」
「当然ですわ」
「リンカの姉御が行くなら俺もお供致します」
「ご主人様が行くならオレも」
俺を含めて6人か。いや、5人と1匹か。大所帯になるが、まぁ大丈夫だろ。それに魔法大国マーリンよりも早く着くと思う。何故なら…………。
「これに乗って行く」
「兄さん、これって」
「ちょっと待て。何でここにあるんだ?これは地球の物だろ!」
「ふむ、成る程。お兄さんの技術ですね」
俺らは、古都の門から出て誰も見えなくなったところで、俺のアイテムボックスから自動車を取り出した。異世界にとっては未知な乗り物で、地球組からしたら見慣れた乗り物だ。
「これは何です?鉄の箱?」
「これは自動車。まぁ馬がいなくても走る馬車と思ってくれれば良い。さぁ乗って出発だ」
自動車でも車中泊に適した車。キャンピングカーに乗り込む。内装は6人でも余裕な広さで、狭いがベッドもある。
「わぁ広ぉぉぉい」
「これは良いな」
「食料は冷蔵庫に入れてくれ。全員乗ったな」
「出発おしんこう」
俺が言いたかったセリフをリンカが言ってしまう。シクシクと悲しみを抑え、俺は運転席に座りエンジンを掛ける。うん、上手く掛かった。
「わっ!本当に走った」
「俺よりも早い」
そういう初見な反応は嬉しい。態々【異世界通販】で大枚を叩いて買った甲斐があったものだ。
「お兄さんに質問があります」
「何だ?」
「このキャンピングカーはどうやって動いているのですか?燃料は、こっちにありませんし」
石炭や石油は、カズトも今だにこちらでは見つかったと聞いた事はない。
「科学よりも発達したものがあるじゃないか」
「魔法…………魔力で動いてるのですか?!」
「あぁそうだ。俺達、勇者は魔力は無尽蔵にあるのに魔法が苦手ときてる。それを有効活用出来るのが、魔道具だ。このキャンピングカーも魔道具の1つだ」
ガソリンの代わりに俺の魔力で動いてる。だが、普通の魔法使いでは、キャンピングカーみたいに巨大な魔道具だと直ぐに魔力はガス欠になるだろう。
だけど、無尽蔵な魔力タンクを持ってる俺は、キャンピングカー並みの魔道具に魔力を流してもピンピンしている。
むしろ、多過ぎて魔力が減って行く事に気付かない。
「私も運転出来ますか?」
「日本で運転していたのか?」
「頻繁ではありませんが、それなりに」
「運転するか?」
「よろしいですか?」
異世界には交通ルールはないけれど、実際に運転した事のある者の方が安心する。
「久々の運転で緊張しますけど、楽しみでもあります」
「うん、上手いじゃないか」
このままの速度なら馬車で2週間は掛かる道程を途中休憩入れても3日ほどで着くだろう。
「良いなぁ」
「オレにも運転させてくれよ」
「お前ら2人はダメだ」
リンカとメグミが自分も運転したいと名乗りを挙げたが、この2人に運転させたら暴走させる事が容易に想像出来る。
「「ぶぅぶぅ」」
「唸ってもダメだ。明らかに速度出し過ぎるの目に見えてるからな。どうしてもと言うならバイクでも乗るか?」
「「乗る!」」
仕方なくカズトは、アイテムボックスからバイクを2台出して上げた。バイクには詳しくないが、確かスーパー〇ブというバイクだったと思う。
「シャッホォォォォ」
「オラァオラァオラァオラァ」
「リンカの姉御羨ましい」
「ご主人様楽しそう」
ジャックとアクアの身体能力なら意外にと乗り越せそうな気がするが、あの2人が異常なだけだ。中国雑技団も顔負けな運転テクを披露している。




