234食目、新たな嫁?ニーニエ
王城から出発して、かれこれ3日経つのは早い。何事もなく、馬車に揺られ途中の村や道沿いで夜営をしつつ店がある古都に着いた。
ヒッヒヒーン
「到着致しました」
懐かしく感じる。まだ3週間程度しか経ってないのに、もう十年そこら経っているような感覚になる。それだけ濃い任務だったということだ。
「ただいま」
俺らは、店の裏口から入った。そこは直接厨房に繋がっており、ホールからは見えない位置にある。
「んっ、カズトおかえり」
「カズト殿おかえり」
「ミミと獅子之助ただいま」
ちょうどお昼を過ぎた当たりで、休憩に入る時間帯だ。もう少しで片付けが終わるところであった。
「これは、もういらない」
ミミが俺にそっくりな模倣人形を解除し、元の姿に戻した。
「やっぱり解除されてたか」
「驚いたぜ。カズト殿が消えた時はよ」
「それは悪かった」
双児宮の聖剣ジェミニ【双子】を解除しなければ、俺が殺られていた。世界を壊すのは容易ではない。だが、違う世界で上書きすれば脱出は出来る。
「ただいま帰りました」
「んっ、レイラおかえり」
「ミミ、ただいまです」
「レイラおかえり」
「獅子之助さんもただいまです。あっ、そうです。もう一人いるの」
レイラの後から出て来たのは、マーリン第二王女であるニーニエ。お辞儀とカーテシをするとレイラの前に進んで来た。
「急なお願いでありますが、この度お世話になる事になりましたニーニエと申します」
「…………そーっ」
「お姉様、何処に行く積りですか?」
「オネエサマシラナイ」
俺には見せた事のないニーニエの般若めいた表情とミミの狼狽える姿に微笑ましく感じるも厨房より休憩に使うスタッフルームへと移動した。
「カズトおかえりなさい」
「お兄ちゃんおかえり」
「カズト!おかえり」
「勇者おかえりなのじゃ」
誰かが知らせたのか俺らがスタッフルームに入るなり、一斉に雪崩込んで来た。
「ドロシー、ユニ、ルーシー、リリーシアただいま」
これから、プチ裁判が行われようとしている。被告人役としてミミ。裁判内容としては、ミミが過去に魔法大国マーリンから十年は家出して、1回も帰って無かったという内容となる。
そして、裁判官役としてニーニエ。良く見るとミミとは性格は違うも何処か面影が似ている感じがする。
「何故こんな事に」
珍しく落ち着きがないミミ。実の妹が来るとは思いもしてなかった様子。
「お姉様、何故城を抜け出したのですか?」
「うっ…………それは…………政略結婚なんてイヤだったから」
中世に近い世界だと良くある話だ。位が高い貴族や王族が他の国の貴族や王族との繋がりを持つため嫁いだり、逆にあちら側から嫁ぐ事は。
ミミも第一王女として王位継承権が低い王子を婿養子として迎えるはずだった。そうすれば、次期マーリン女王となっていた。
「それに………ミミに女王なんて務まらない」
「姉様」
ミミが王女という事実に驚いてるが、何処か納得出来る部分もある。1つは名字持ちという事。2つは膨大な魔力の持ち主である事。これらを踏まえて、何処かの貴族の出身だとは思っていた。
だが、ミミが自分の事を話そうとしてないのに態々聞くなんて野暮なんて真似、俺はしたくなかった。
「それと…………女王にならなかったからカズトに会えた」
「ミミ」
普段無表情なミミが満面な笑みで嬉しい事を言ってくれた。俺が女ならキュンキュンとしていただろう。
「姉様、もうマーリンには」
「戻らない」
「そうですか……………なら、レイラと剣の勇者様には話しましたが、私も残ります」
「えっ?」
「「「はぁぁぁぁぁ!!」」」
ニーニエの爆弾発言に驚きの声が響き渡る。それ即ち、カズトの嫁が増える事と同義だ。カズトに視線が集中されるてる中、そっぽを向き冷や汗が溢れる。
「カぁぁぁズぅぅぅト?これは、どういう事?」
「いや………あの………」
ドロシーに詰め寄られる。コワイこわい怖い。ドロシーの背後に魔力で形作った般若らしき物体がいる。
「レイラは反対じゃない?」
「まぁね。あっちで3週間も過ごしていたから。ニーニエが、良い子なのか悪い子なのか、いくらなんでも判別出来るわ」
ミミの質問にレイラが答えると、ミミも納得して肯定側に立った。自分の妹が良い子なくらい知ってる。




