SS13-3、魔術師と杖〜杖から女帝〜
瑠璃が《女帝》のカードを取り込んでから、どれだけ時間が経ったのだろうか?
僕の事でないにしろ、ソワソワとしてくる。適正が無ければ、死ぬ可能性があるから尚更だ。
「《魔術師》様、終わりました」
「そうか………ふぅ」
無事に終わって良かった。もし死ぬ事になったら全て水の泡と帰すところだった。
こんな僕に従順であり、美貌を兼ね備えてる女性はそういまい。教祖様は、あれはあれで美人だが裏切り者をけして許さないという瞳をしている。
だから、教祖様は論外だ。一番側にいたら命がいくつあっても足りない。
「そうだ、僕の名前をこれから蓮と呼ぶように」
「はい、蓮様」
「お前もそうだな…………モミジにしよう」
「私の名前はモミジ、蓮様ありがとうございます」
僕と瑠璃…………モミジの素性と名前は知られており外に出れば、バレる可能性がある。だから、先ずは名前を変えた。
「総本山にいる時は良いが、外に出る時は容姿も変えた方が良いな」
写真やITがない世界でも他国の重鎮な人物は名前以上に容姿も知れ渡るものだ。国王の次くらいには勇者の知名度は高い。
「外に行く時は、僕の【肉体変化】で変えるから良しとするか。モミジは何か意見あるか?」
「私は、蓮様の命令で動くのみです」
僕の命令だけで動くのは危険だ。もし僕と離れ離れになってしまったら?もし僕の命令が間違っていたら?それを考えると恐ろしい。
「もしも、僕の命令が間違っていたら指摘してくれ。それと、モミジが1人になったらモミジの命を最優先に動け。それ以外は、僕の命令以外は聞くな。良いな?」
「はい、蓮様の命令ならば従います」
これで恐らく大丈夫だと思う。ここまで僕に従順という名の人形になるとは思いもしなかった。
【項目改変】を使用した相手には五年位のインターバルを空けないと廃人と化してしまう。だから、微調整が出来ない。
まぁそこらの盗賊や冒険者、魔物よりも強いし、余っ程の事がない限り、どうにかなるだろ。
「そうだ、もう1つ命令を追加だ。僕と恋人になれ」
「それが蓮様の命令ならば従います。これで宜しいでしょうか?」
ピトッとモミジが、僕の腕を組んで胸をくっつけて来た。恋人と言った手前合ってると思うが、これはこれで照れる。
そして、僕の人形のはずのモミジが若干頬が紅く染まってるように見える。記憶や人格を改変しても羞恥心という感情は幾らか残っていたようだ。
「合ってるが…………恥ずかしいな」
今まで自分に恋人がいた事はなかったと失念していた。この世界に復讐するために生きてきた僕が恋人を作る余裕なんてあるはずもない。
「まぁ良い。教祖様のところへ行こうか。成功したと報告しないと」
再び教祖カノンがいる玉座の間へ趣き、モミジに《女帝》が適正あったと報告した。
「これで新しい仲間が2人魔神教会に入って喜ばしい」
「2人?」
1人は《女帝》であるモミジ、もう1人は教祖カノンの隣に立っていた。てっきり教祖カノンに捕まって死んだとばかり思っていた。
「お前!」
「よっ、俺も教祖様の配下となったぜ」
「彼はNo16《塔》。もちろん知ってるわよね。同じ勇者だったんですもの」
なに?!銃の勇者であるケンゴが教祖様の配下となり、タロットカードの1つ《塔》を受け入れただと!
タロットで唯一正位置と逆位置両方が不幸な意味を持つ、ある意味で《死神》よりもヤバいカードだ。
「聞いたぜ。お前は、最初から魔神教会側だったんだってな」
「それがどうしたのです?」
「別に責めてる訳じゃない。ただ羨ましいと思っただけさ」
「ほぉ随分と変わりました?」
ケンゴといえば、正義感の塊と言い表せる男だったはず。それが世界の敵である魔神教会に寝返るとは、どういった心境の変化があったのか?
「俺は何も変わってないぜ。ただ見方を逆にしただけだ。あちらにいたままでは見えない景色がある。それだけだ」
「キザな台詞ですが、似合ってませんよ」
「うるせぇ、ほっとけ。それで気になるのだが、後ろにいるのは杖の勇者の瑠璃さんか?」
「あぁそうだ」
杖の勇者というのもあるが、美人だからその容姿が目立つ。




