SS13-1、魔術師と杖
魔法大国マーリンとの戦いが終わり、魔神教会総本山に戻って来てから直ぐに僕を《世界》に中を案内するように教祖カノンが命令した。
教祖カノンを見送った後に、《世界》は《魔術師》を総本山内を案内する。
「貴様の部屋はここだ」
廊下や広場など共用な場所は、薄暗く足元もおぼつかない雰囲気であったが、各自の部屋は貴族の客室と思えるような明るい雰囲気を醸し出している。
「そんなに怖い顔をしないでくださいよ」
「ふん、教祖様の知り合いで無かったら私が殺してるところだ。何故、もう教祖様のカードを既に身体に宿しているのだ」
「こことは別の世界で貰っただけです」
「なに?」
いやー、怖い怖い。どこでも嫉妬より怖いものはない。本当に《世界》は教祖様を崇拝というよりも愛してるのだと思う。
「別に難しい事じゃないです。あなたに教祖様が《世界》のカードを渡す前に、こことは違う世界で《魔術師》のカードを貰った次第です」
「理屈は通っているが」
「これでもポーカーチェイスに自信がありましたが、教祖様には僕の内面を看破されました。いやぁー、教祖様は優しいですが怖いですね」
あれ程、怒らしたら怖いと思った人物は《魔術師》は知らない。1回だけ対面しただけで分かった。この人を怒らせたら一番ヤバいと。
だから、もう内心から裏切る気持ちが失せた。そもそも美人なのが良い。カズトも顔はイケメンだし、これは血筋かね?
「さてと、次を案内お願いします。《世界》先輩」
「チッ…………死なないようにな」
「努力します」
色々回った。食堂や大浴場に訓練場、個人が持つ研究所等があった。貴族が持つ豪邸が何軒入るのだろうか?
「さて、もうそろそろ教祖様の下へ行くぞ」
僕が呼ばれた理由は予想が付く。僕が捉えた本の勇者である瑠璃の処遇についてだろう。
「教祖様、《世界》と《魔術師》です」
「良く来たね。入って良いよ」
「失礼致します」
《世界》が扉を開けると、そこは玉座の間ぽい部屋であった。
教祖カノンは、玉座らしき椅子に座っている。隣には、武術の達人ぽい老師が待機している。
「チッ…………《愚者》、貴様いたのか」
「儂がいなくて教祖様の世話は誰がするのか。何時までも横たわっているはずがないわ」
バチバチと《愚者》と《世界》の間に火花を散らしてる。
「この2人は仲が悪いのですか?」
「いつもの事だから、放っといても良いわ。それよりも本題に入りましょう」
本題の内容は予想がついてる。
「捕虜にした杖の勇者をあなたの好きにして良いわよ。タロットは、これが良いでしょう」
「ありがとうございます」
よっしゃぁー、予想通りだ。これで瑠璃は僕の想うがままに出来る。受け取ったタロットカードは、No2《女帝》のカードだ。
瑠璃にピッタリなカードかもしれない。優しい面もあり抱擁力がある瑠璃なら適正があるに違いない。
「《世界》、杖の勇者がいる牢屋に案内してちょうだいね」
「はっ、畏まりました」
「こっちだ。ついてこい」
《世界》に着いて行くと、そこはズラッと並んだ牢屋がある。その一室に両腕を鎖に繋がれた瑠璃が、ぐったりと顔を下に向きながら微動だにしていない。
「ここだ。これがカギだ。後は好きにしろ」
カギを渡された。《世界》は、カギを渡すと颯爽と出ていった。
「瑠璃無事か?」
「凛、何で裏切ったの?」
悲しそうな瞳で、こちらを見詰める。やはり、凛は優しい。こういう場面では普通罵倒するだろ。
「瑠璃にも真実を話そう」
僕が実は、この世界に来るのは2回目だという事。1回目でも本の勇者を全うしたが、突然護って来た奴らに裏切られ地球へと転生させられた事。
転生した地球で、教祖カノンと出会い《魔術師》のカードを貰った事。などを話した。
「つまりは最初から魔神教会側だったという事さ」
「そんなっ!」
とても信じられないような表情を向けられ、僕に近寄ろうとするがガシャンガシャンと鎖が邪魔をする。




