233食目、マーリンからグフィーラ王国へ帰還
やっと帰ってこれた。まるで十年は魔法大国マーリンにいた気分だ。そんなこんなで帰って来れた俺達は、先ず王様と王妃様を王城へと送らないければならない。
その送った後で店がある古都に戻るのに3日は掛かる。別に距離の問題ではない。
今回の任務による恩賜を賜る式があるのだ。普通なら叙任されるところだが、勇者は例外として金貨やレアな武器・防具等を与えられる。
「ご苦労であった。此度、魔神教会との戦いがあったが、みな無事で戻ってこれた。その褒美を与えよう」
「有難き幸せ」
簡易的なもので、数人騎士が滞在してるだけで他に貴族は見当たらない。
「こちらになります」
「ありがとうございます」
王様の側にいた執事長が、台に乗せた袋を俺に渡す。袋の重量的に結構な金貨が入ってるようだ。
「うむ、また世話になるだろうが、その時は頼む」
「国王陛下が、頭を下げないでください」
王様の頼みは簡単には断れられない。こちらには、レイラがいるのだから。
「そう言って貰えて助かる。して、孫の顔が早く見たいのじゃが」
「お、俺はこれで失礼致します」
そそくさにここは退散するに限る。レイラ達がいる部屋に戻り、早くみんながいる店に帰りたい。
「ただいま」
「カズト、お父様の話は終わりました?」
「あぁ、終わったよ。それで、ニーニエが何でここにいるのかな?」
俺達が魔法大国マーリンから帰る際、馬車にいなかったよね?
「いやですわ、剣の勇者様。私と剣の勇者様の仲じゃないですの」
「えーと」
ジーーーっとレイラが鋭い眼力で見詰めて心が抉られる感覚に陥る。
「そうでした。こちら母様からの手紙でございます」
「えっ?マーリン女王陛下から?」
剣の勇者殿へ
今の現状では魔法大国マーリンも安全とはいえぬ。そこで最も安全と云える場所は、お主の店であるレストラン”カズト“という結論に至った。
なので、ニーニエをそちらに送る事にした。けして、泣かす事にないようにな。もし、泣かす事があれば……………どうなるか分かっておろうのぉ。
追伸
もし出来てしまっても不敬とは致さないと誓うからのぉ。楽しみにしとる。
魔法大国マーリン女王マーリンより
追伸は余計だ!
「なんと書かれていました?」
ドキッ
「ニーニエをよろしく頼むと書いてあった」
心臓に悪い。これを見られたら、また裁判になってしまう。レイラに見られる前に速やかに処分しないと。
しょい
「ふむふむ成る程」
「れ、レイラ?」
脇からレイラにマーリン女王の手紙を掠め取られた。これはヤバい。冷や汗がダラダラと伝い落ちる。
「カズト、何逃げようとしてるの?」
「に、逃げるなんてとんでもない。ただ、トイレに行こうと」
「そこに立ってなさい。良いわね」
「はひっ!」
勇者であっても嫁は怒らせたくないものだ。もう顔面蒼白、頭の中が真っ白でパニックになってる。
「ニーニエ、1つだけ聞くわ。あなた、カズトの事好き?」
「えっ?剣の勇者様の事をですか?」
「大事な事なの。カズトと一緒になりたい?」
「私は…………私は剣の勇者様の事が好きです。ファンよりも……………その………添い遂げたいと思います」
「だ、そうよ?」
何で俺に振る?それにニーニエまで何で俺を見る?!
「はぁー、ここまで着いて来たんだ。今更、追い返す訳にはいかまい」
「剣の勇者様ありがとうございます」
ニーニエが俺の左腕に抱き着く。ムニュっと当たっているのだが、これは態とだろうか?
「あっ、ズルい。こちらを貰うわ」
右腕には、レイラが抱き着く。端から見たら両手に花だろうが、やられる方はたまったものじゃない。
まだここが王城の客室だから良いものの、外で同じ事をやられたら嫉妬の視線に針の筵だ。
「レイラとニーニエ分かったから、俺達の店へ早く帰ろう」
「それもそうね」
「私は、まだ抱き着いていたのだけれど、剣の勇者様に嫌われたくないから離れる」
既に門の外に馬車が待機してるらしい。その馬車で、およそ3日ほど掛かる。さぁ本当に我が家に帰るぞ。




