231食目、休息
ギリギリだった。後障壁1枚で【神の手】の光線を防ぎ切った。教祖カノン以外のみんなは額から汗が溢れ落ち、勢い良く胸から息を吸い込んで地面に座り込んでいる。
「ハァハァハァハァ、つ、辛い」
「ゲホゲホ、もう1回来たら…………防ぎ切れねぇぞ」
「だらし無いわね」
「「「「お前が言うな」」」」
身体の疲れというより技術の使い過ぎで精神が疲弊して、まともに動ける者は教祖カノン以外いない。
「カノン姉、もっと強い障壁を張れたんじゃないのか?」
「貴様、教祖様を疑うのか!」
「こう見えてもやせ我慢してるの。もう立ってるのもやっとだよ」
「教祖様!」
あぁ良く見たら足元が震えてるし、冷や汗も掻いてる。俺は、とあるイタズラを思い付いた。
「ツンツン」
「ぎゃっ!」
ブルブル
「な、何をしたのかしら」
「いやぁー、本当に我慢してるのかなと思って」
「後で覚えてらっしゃい」
巫山戯ていられるのも【神の手】の光線を防ぎ切ったからだ。もう1度発射される気配はない。
「やる事はやったし、お前達さっさと帰るわよ。《世界》」
「はっ!ここに」
「準備は出来てるわね?」
「何時でも帰れます」
「おい!待て」
今ここで帰れたら、今度いつ立ち会えるのか分からない。ミシミシと痛みが走る身体を気合で立ち上がり、足を引き摺りながら教祖カノンに近寄ろうとする。
「カズちゃん、またその内に会えると思うわ。《世界》」
「はっ!【転移】」
魔神教会の幹部ら全員が、その場から消え静寂が訪れた。各国の王族を閉じ込めていた障壁も消え、一応は助ける事は出来たが、魔法大国マーリンに残った傷跡は計り知れない。
そう思った瞬間、景色は暗転した。
「ここは?」
「医務室のようですよ」
「アシュリー!」
声をする方向へ振り向くと、アシュリーが寝ていた。アシュリーだけではない。あそこにいた勇者全員が、白いベッドで寝ていた。
「そうだ!王様達は?!〜〜〜〜っ」
痛っ!上半身を起き上げた瞬間、身体全身に高電圧を浴びせられたような痛みが響き渡る。筋肉痛でもここまでにはならない。
「あの後、みんな倒れ込んだようです。おそらく精神力を酷使したせいだろうって」
そりゃぁ、一国を滅ぼせる程の光線を防ぎ切ったんだ。倒れない方がおかしい。その反面、勇者の力がどれだけ恐ろしいのかハッキリと分かる場面であった。
「各国の王族は動ける者に指示を出して瓦礫の撤去や国民達の救助等を行ってるようです」
「みんなの状態は?」
「命には別状ありません。ただ一番酷いのはサンドラだそうです。呪いの類のようで、そう簡単には解呪は出来ないそうです」
「呪い?」
「教祖カノンを倒すために自分にも呪いを掛けました」
「そうか」
命に別状がないなら、その内に起きるだろう。それよりも復旧の手伝いをしたくてウズウズしてる自分がいる。
「何処に行こうとしてるのですか?剣の勇者様」
ギクッ
「に、ニーニエ!ど、どうしてここに?」
「私は、勇者様の介護長になりましたの?」
「介護長?!」
そんな役職聞いた事がない。
「この場での一時的な役職ですわよ。それに誰かが見張ってないと、剣の勇者様みたいに出て行かれるんですもの」
「そ、それは」
「勇者の義務とか言うの無しですわ。勇者も種族、キズ付く事もあれば、最悪の場合は死ぬ事もあるのです。だから、今はゆっくりとお休みになられまして?」
参った。こんな瞳で見詰められては出て行こうにも罪悪感の方が勝ってしまう。
「ニーニエ様の勝ちね」
「ニーニエは王族だ。王族の命令に背けば、最悪不敬罪に問われる」
「はいはい、そうしとくわ」
「クスクス」
ニーニエにも笑われて、穴があったら入りたい気分だ。ここは大人しく布団を被って寝よう。
医療室にいる間の食事や風呂は、ニーニエの指揮の下、何の不自由もなく過ごせていた。
そして、3日が経ちサンドラ以外は全員が起き上がり、もうスッカリと元気に動けるまでになっていた。




