SS12-3、盾の勇者=教祖〜盾vsケルベロス〜
「くっ…………ケルちゃん」
『ギャルルル』
「これは珍しいわ!地獄の門番と言われるケルベロスじゃない」
普通ならSランクの魔物が迫って来たら怯むもの。だけど、満面な笑みで、ケルちゃんの前足による踏み潰しを受け止めた。
ケルちゃんの自重により地面が幾らか陥没してるが、教祖カノンは両腕を掲げ潰れないでいる。
「凄い肉球ね。プニプニで、犬や猫愛好家なら溜まらないでしょうね。でも、ダメよ?オイタしたら……………ね?」
『ギャル!』
信じられない光景が目の前にあった。教祖カノンが、ケルちゃんの片足を掴み持ち上げ持ち上げたのだ。
自分の十数倍はあろうケルちゃんの身体が浮き、5週程ぶん回したところで、背負投げの要領で背中から地面へ叩き落とした。
「うぉりゃぁぁ」
『ギャン』
「ケルちゃん!」
Sランクの魔物であるケルちゃんが一方的に殺られるとは教祖カノン以外思いもしていなかった。それも盾の勇者でもある教祖カノンにだ。
本来は攻撃の技術が皆無な盾の勇者は、最弱な勇者として、この世界では常識で絵本にもなっている。
「よいっしょ」
そんな教祖カノンが、今まさにケルちゃんにトドメを刺そうとうつ伏せにひっくり返ってるところに登った。
「や、止めて!ケルちゃんを殺さないで」
サンドラの静止も虚しく、教祖カノンは何の躊躇も無く右腕をケルちゃんの腹にブッシュっと突き立てた。
例外なく、どんな魔物でも体内に魔石が存在する。魔石こそ、魔物の力の源であり第二の心臓とも呼ばれる事もある。
「この魔物は危険よ。ちゃんと処分しないとね」
グリグリと何かを探すかのように右腕を汚れるのを気にしないで動かす。
「あった」
指先に何かが当たる感触があり、それを掴み勢い良く持ち上げると、教祖カノンの身長の3倍はあろうかという大きさの宝石みたいな目映い光を放つ石であった。
「これがケルベロスの魔石。流石Sランクというだけはあるわ。これだけの大きさ中々目に出来ないもの」
「それをどうする気?!」
サンドラが質問するが、もう遅い。魔石を取り出された魔物は、遅かれ早かれ死ぬ運命だ。
戻してももう助からない。
「くだらない質問よ。私達の聖武器を強くする方法。それは経験を積む事。魔物や対人戦でも良いけどね。最も効率の良い方法は、ランクの高い魔物の魔石を聖武器に吸収させる事。このようにね」
私は右手に力を込めると、ピキッと魔石にヒビが入り全体へと拡がりガラスのように砕けた。
魔石の破片が重力で落ちると思われたが、光の粒子へと変化し聖盾ムーンローアに吸収された。
「うん、やっぱりSランクだと格別だわ」
「そ、そそそそんなぁ!ケルちゃんがぁぁぁぁ」
本来なら魔石が砕けた時点で、その魔物も光の粒子となり消滅する。ただし、魔石が壊れる前に部位を採取すれば残る。
「なんと酷い事を」
「酷い?何を言ってるの?魔物は魔物よ。召喚主であってもいつかは寝首を掛かれるのがオチよ」
「ケルちゃんは、そんなんじゃない。絶対に許さない」
ゾクゾク
「良いわぁ。その目つきに殺気、ゾクゾクするわ。さぁ戦いを楽しみましょう」
本気になって貰わないと楽しくならない。だから、敢えて大切にしてるであろう魔物を倒した。
私にとって魔石による強化と楽しい戦闘で一石二鳥な展開になってウハウハである。
「お前達は、そこで見てなさい」
「しかし、教祖様!」
「なに?私の言う事聞けないって言うの?」
「いえ、そんな事は」
絶対服従の《教皇》が止めようとするが逆らう事は出来ずに後退する。
全員私と背後にいる事を確認し、私は障壁を張る。これで、私の大切な下僕達を守れる。
「ムフフフフ、そんなに落ち込む事はないぜ。《教皇》、教祖様なら無事に戻ってくるだろうよ」
「《星》、貴様!教祖様が心配じゃないのか!」
「ムフフフフ、そっちこそ教祖様を舐めてるんじゃないのかい?僕らのトップが弱い訳ないじゃない。それに、今行ったら怒られるの目に見えてるじゃないか」
あんな満面な笑顔の教祖様を見るのは久し振りだ。




