SS12-1盾の勇者=教祖
「教祖カノン様、本当に行くのですか?」
「こんなに楽しい事をやらないなんて馬鹿げてると思わない?」
「そう申しられましても」
魔神教会のトップである教祖カノン、この人をお護りし身の回りを世話するのがワタクシの役目だ。
今、教祖カノンが行こうとしてる場所は現在進行形で戦闘が勃発しており、それも敵の陣地の真ん中という危険な所だ。
護衛をする傍ら、態々危険な場所へお連れする事は容認出来ない。
だが、当の主は瞳をキラキラと輝かせ、まるで子供がオモチャを見つけたようにハシャイでる様子であった。こんな顔をした時は配下であるワタクシ達には止められない。
「はぁ、分かりました。その代わり、ワタクシも着いて行きます」
「うん、それは任せる。《愚者》が、あの様じゃねぇ」
「ふぅ、全くもってその通りで御座います」
もう1人の教祖カノン様の護衛兼世話役の《愚者》は、先日の任務からズタボロで帰って来た。
「まぁ相手が勇者3人なら仕方ないかな。それもその中にリンカもいたというしね」
カノンの実妹であるリンカ。地球にいた頃から武道に関しては無敗を誇る自慢の妹だ。
こちらに来てからもリンカの強さは健在のようで《愚者》と互角以上に戦えていたのが証拠。いや、《愚者》は口にしてないが、圧倒していたに違いない。
そうでなくちゃ面白くない。ゾクゾクして溜まらない。カズトも来てるようだし、これから益々面白くなりそうだ。
「随分と拳の勇者を買って置いてなのですね?」
「だって、私の妹だよ?弱い訳ないじゃない」
「しかし、今から向かう所には妹様はいないようですが」
「その代わりに、もう1人の可愛い弟が来てるのよねぇ」
カズトもこちらに来てる事は確認済み。早く可愛い弟と妹に会いたいものだ。でも、会った瞬間に殺される未来しか想像出来ない。
自分がまだ地球にいた頃、家族を崩壊に導いたのだから仕方ない事。もし、殺されるならカズトかリンカのどちらかと決めている。
まさか異世界に転生するとは思いもしなかったが、カズトとリンカと戦って死ねるなら本望。それも楽しみの1つ。
「そろそろ行こうか」
「では、お手を拝借」
カノンは《世界》の手を握ると、本拠地の玉座から2人の姿は消えた。
「教祖カノン様お着きになりました」
「うん、ありがとう」
2人が着いた頃には機械と勇者の混戦みたいな激戦の真っ最中であった。2人がいる事は誰も気付いていない。
「《世界》、《隠者》を助けてあげて」
「しかし!」
「助けてあげて」
「……………はぁ、我が主の頼みであれば」
「ごめんね」
教祖カノンに断固たる瞳に根負けし、《世界》はため息を吐きながら展開されている世界に入って行った。
「さてと、こんな楽しい戦いに混ざりますか」
混戦になってる渦中に態と入っていく。日本では先ず味わえないスリルと感触が楽しくて仕方ない。
「私も混ぜてよ」
突然の私の声に顔を向ける勇者達と私の可愛い部下達。それぞれ違う意味で驚愕な表情を浮かべている両チーム。
「教祖様、どうしてこちらに?!」
「うん、私も楽しいパーティに参加しようとね」
いち早く私のところに駆け付けたのは《教皇》だった。だが、私は首を傾げた。
《教皇》の姿は、まだ自分が魔物化した代償として小さいままだったからだ。
「もしかして、《教皇》?その姿面白いね」
「くっ…………これも勇者にやられてこんな姿に」
まぁ十中八九、《教皇》の自業自得でしょう。私への忠誠心は高いが、なにせ魔物に関する研究バカだ。
自分を魔物化して勇者と戦ったが、結果的に助けられた羽目になった。勇者は勇者で、本能的に敵でも助けられる時は助けてしまう。そんな生き物だ。
ただし、私みたいに例外はいる。
「でも、死ななくて良かった。《教皇》の枠は、お前にしかいないと私は思っていますよ」
「教祖様!何とも光栄であります」
「ムフフフフ、これでやっと帰れるのか」
「《星》もお疲れ様」
外見はボロボロだが、勇者と戦っていた割には元気のようだ。ここにいない《死神》は後で生贄を提供して甦るとして、《吊るされた男》は自力で本拠地に来るでしょう。




