229食目、夢の世界その4
ルリ姉と魔神の左手がない以上、世界を維持する必要はなくなった。世界を解除し、ここから出れば自動的にくノ一女はリタイアとなる。
だが、何故だろう?ここにいるのは俺とくノ一女だけ。再現した者を含めれば、もっといるが現実で生きてるのは俺とくノ一女だけだ。
それなのに、言葉に言い表せない程に寒気を感じる。こう、ドス黒い何かに包まれているような、そんな感じだ。
「おや、ここにいらっしゃいましたか?《隠者》」
「「…………!!」」
くノ一女の背後に立つように現れた人間の女性?がくノ一女のコードネームを呼ぶ。
その名前を知ってるのは、魔神教会の幹部らと戦った事のある者くらいだ。
それに再現された者達が、くノ一女をコードネームで呼ぶのはおかしい。つまりは、コイツは外部から来た何者かって事だ。
「何でお前がいる?!この教祖様の犬が。《世界》」
「《世界》!」
くノ一女の仲間か。それにしても、どうやって入ってきやがった?ここは、俺の世界の中なんだぞ。
「酷い言われようですね。折角、ここから助け出そうとしてるというのに。外では、我が主がお待ちですよ」
「なに?!教祖様が?」
魔神教会のボスである教祖様と呼ばれる存在が来てるだと!カズトの予想だと、何らかの勇者の可能性がある。
コイツラがタロットカードと同じコードネームが付けられ、それに準じた技術を身に付けてる時点で確実だろう。
「うん?くノ一女の心に変化が」
死んでいる両親と幼い妹とずっと一緒にいたいと願うくノ一女の優先順位が変わった。両親と妹よりも教祖様とやらが上位となった。
しまった!ヤられた!優先順位が切り替わった事により、今見てる夢は何の意味も無くなった。ここから出れる条件が整ってしまった。
「容易いものです。この世界は強力ですが、こう1つの綻びで破綻する。何とも愚かと良いようがありません」
「くっ…………急に現れて何を言ってるんだ」
「これは失礼致しました。自己紹介がまだでしたね。ワタクシは、教祖様の右腕No21《世界》お見知り置きを」
俺に向かって45度の角度でお辞儀をする《世界》。その立ち振る舞いだけで、くノ一女よりも強者だと確信してしまう。
「ワタクシが来たのは、《隠者》をお迎えに来ただけなのです。ここはワタクシの顔を立てると思って見逃して貰えないでしょうか?」
「……………断る」
今、見逃したら危険だ。ここで捕まえるなり、殺るなりしないと後々後悔すると、俺の本能が訴えてきてる。
「ここで見逃すくらいなら捕まえる。【夢の世界:想像】」
ここは夢の世界、俺の思う通りに操作出来る。例えば、実在してる(過去にした)魔物や種族を想像し思い通りに動かす事が出来る。
「これはこれは、どれもSランク以上の魔物と伝説として語りつかれてる種族や冒険者ばかりではないですか」
どうやって俺の世界に侵入したか分からないが、これだけのランクが高い猛者達を1人だけで凌ぎ切る事は不可能に近いはずだ。
だが、焦る様子が《世界》には一切見受けられない。凌ぎ切る手段があるというのか?
「行けっ。最優先事項は拘束、無理なら殺しても構わない」
「舐められたものです。このワタクシめを拘束する事なんて不可能ですよ」
《世界》が手に持った武器を見てカズトは目を疑った。何故なら、魔法や技術が発展してるこの世界には存在し得ない拳銃なのだから。
「【必殺命中の弾】これで終わりですか?」
「……………」
何もない空間に拳銃を撃った。常人には速すぎて弾が何処に行ったのか追えないが、カズトは見ていた。
穴に吸い込まれかのように弾が消えた。その瞬間に俺が産み出した想像物は無惨に倒れていた。
「何を言ってる?ここは俺の世界だ。これからが楽しいところじゃないか」
カズトがパチンと指を鳴らすと、《世界》が倒したはずの想像物達が、何も無かったかのように起き上がる。
「1つ聞きたい。良いかな?」
「はい、何でしょうか?」
「その拳銃は何処で手に入れた?」
答えによっては拘束する積りだ。




