228食目、夢の世界その3
「い、いただきます」
皿に見立てた木の板に、大小様々な泥団子と砂が盛り付けてある。俺は、口をパクパクと動かしながら食べる素振りをする。
あぁーっ、大の大人が何をやってるんだろう。ここは俺の作った世界なのに、くノ一女を心の枷に嵌め一生出られなくするための作戦が、俺の心にダメージを負わせて来る。
もしも幼いクルミがいなくて、こんな所を誰かに見られたら恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちになるに違いない。
「どう、あなた美味しい?」
「あぁ美味しいよ。これは肉団子かな?」
「…………おはぎ」
俺が間違えてしょんぼりと頭を垂れてる。めっちゃくちゃ気不味い。というか、分かるか!
「これは、おはぎかな?」
「それは玉子焼き」
「…………」
益々気不味くなっていく。どれも同じ泥団子で、どう区別付けたら良いのか分からない。
「うっ…………お、お風呂にしようかな」
「お風呂はここね」
先程、食事をした場所から一歩移動しただけだ。俺は、言われた通りに移動すると、幼いクルミは爆弾発言を落とした。
「それじゃぁ、あなた服を脱いて」
「これで良いか?」
本当に服を脱ぐ訳ではなく脱ぐフリだ。ヌギヌギと腕や足を動かして、その場に座る。
「何巫山戯てるの?服脱いでないじゃない」
「えっ?脱いだだろ?」
「ただ腕と足を動かしただけ」
マセ過ぎだろ!本当に服を脱げと言うのか。もう予想斜め過ぎて言葉が中々出て来ない。
「うーん、クルミから脱ぐ?」
何を思ったのか?自分から脱ごうとするクルミ。
「ちょっと待て」
俺は全力で止めた。この家には、この子の両親がいるのだ。実の娘が今日初対面な男の前で服を脱ぎ出したら悲しむ。それ以前にクルミの父親に刺されるかもしれない。
「うん、待つ」
どうにか防げた。強く言ったのが功を奏したのか大人しくなって、言う通りに待っててくれている。
そういえば、くノ一女は何処に行ったのだろうか?アイツはクルミの姉だろ。
「ちょっと何をしてるのよ」
やっと出て来た。これで変態とロリコンの烙印を押されなくて済む。
「何って、お前の妹と遊んでいただけど」
「妹?」
くノ一女は、首を傾げながら俺の側にいたクルミに気付いた。俺が戦った時より十数年幼いクルミに対して数秒間固まった後、肩を震わせながら勢い良く幼いクルミに抱き着いた。
「クルミちゅわぁぁぁぁぁん、お姉ちゃぁぁぁぁぁんよ」
「わっわっ、お姉ちゃん?」
抱き着かれてるクルミもくノ一女だと一瞬首を傾げるが、両腕を伸ばし姉妹の感動の再会という名場面だと思いたいが、くノ一女のシスコン振りに引いてしまう。
「お姉ちゃん苦しい」
「あっ、ごめんね。何処か痛かった?」
「ううん、大丈夫」
敵ではなかったら、タダ仲が良い姉妹に見えるが、くノ一女は魔神教会の幹部だ。油断は出来ない。
「よしよし、少しそこのお兄さんとお話あるから、少し向こうに行ってなさいね」
「えぇーっ、お姉ちゃんとも遊びたいのに」
「お話終わったら遊んであげるから」
「うん、分かった」
幼いクルミは素直にくノ一女の言う事を聞き家の中へ入って行った。やはり、姉の言う事は素直に聞くものだな。
「アタシに聞きたい事あるんじゃないの?」
「…………それじゃぁ聞くが、ルリ姉は何処にいる?」
何度も探知してみるが見つからない。ここは俺の世界だ。もしいるなら見つからないはずはない。それに魔神の左手も見つからない。
「もう気付いてるんじゃないの?ここには、既にいないって事を」
「やはり、そうか」
当たって欲しくなかったが、影にルリ姉が飲み込まれた時点で、俺が飲み込まれた影とは別の影へと転移させたのだろう。
そうすると、最早俺達にルリ姉を追う手段はない。くそっ、やられた。
「チッ…………やってくれたな」
「それはそっちもでしょ?まさか世界を書き換えるとか、普通なら有り得ない。そのお陰で、アタシはここから出られなくなった」
頭では分かっていても既に死んでる両親と幼い頃の妹から離れたくないと心の奥底でくノ一女は願ってしまっている。
その願いを払拭しない事には、ここから出る事は罷り通らない。だが、誰でももう1回会いたい人や叶えたい物事は必ず存在するもの。
例えば、あれが食べたいとか何時までも寝たいとか誰かと結ばれたいとか、三大欲求も叶えたい物事の中に入る。
それがない輩は神かとある境地に達した仙人と呼ばれる者達で、勇者と対極の位置にいるとされている。




