223食目、剣vs《隠者》その3
「ねぇ、剣の勇者アタシの物になる気はある?」
突然の申し出に頭上にハテナがいっぱい浮かんでるカズト。何でそうなる?俺は罠に嵌って拘束されてるが、今現在進行系で敵なんだ。
戦いの最中にスカウトなんて普通するか?一応聞いてみよう。
「俺には嫁がいるので」
「はぁ?何言ってるのよ。アタシの部下になれと言ってるのよ」
やはりそうだったか。まぁそれでも俺の答えは最初から決まっている。
「断る」
「キャハハハ、まぁ最初から分かっていたけどね。記憶改竄や人格改竄されても同じ事を言えるかしら?」
それってチートじゃねぇ?それをやられたら誰だって抗えないし、敵か味方か分からなくなる。
「…………」
「絶望してるようね」
「いや、ただ集中してただけだ。これを破るには相当なパワーがいるからな」
「無駄なの分からないの?」
アタシが解かない限り脱出不可能。壊すのも無理。もし、脱出出来るとすれば、今のところ《力》と《愚者》の2人だけだ。
「やってみないと分からないさ。おりゃぁぁぁぁ」
メキメキと布状の影が音を立て、ビリビリと破けて行く。信じられないと、その様子を呆然自失で見てる《隠者》は、まるで《力》みたいな力業だと、ただ見ていた。
「破って見せたが、何か言う事は?」
黒い雷を体内に撃ち込み無理矢理筋力を増強させた。その増強比率は半端なく、最大で山1つを砕く程までやれる。だが、体内に撃ち込むため身体の負担も半端なく、連続使用は1週間に1回程度が限界である。
「まさか!そんな訳…………」
あの2人以外には破れないと思ってたのに、こんなあっさりと破って見せた男が目の前にいる。益々欲しくなってきた。
「キャハハハ、良いわね。ジュルリ、益々お前を欲しくなってきちゃったじゃない」
ゾォォォ
背中に悪寒が走る。
「そ、それは断る」
嫌なヤツに目をつけられたものだ。くっ………、まだ腕が痺れて感覚が、ほぼ感じられなくなってる。
だが、やるしかない。ルリ姉を取り戻し魔神の左手を破壊する。それと、ここでくノ一女を倒さないと後々嫌な予感がする。
ペロリ
「嫌がるアナタを無理矢理にでもアタシの物に出来たらと思うとヨダレが出ちゃうじゃない」
「……………!」
変態がいる。
誰か交替してくれないかな?っと後方を見るが、何やら大量なロボットが混在しており、誰も手が空いてないようだ。
「余所見しても良いの?」
「くっ!」
こっちは影の簀巻きから脱出するため満身創痍となったというに、あっちはまだ余力を残しているではないか。
影の形状を変幻自在に変化させ、嫌な方向から襲ってくる。流石に、あの刃状の影だけではなかったか。
「あぅっ!」
弾いてるだけで腕の痛みが脳まで響いてくる。ズキッズキッと、まるで電気を直接流されてるみたいだ。
狙いを定めさせないために俺は動き続けるが、腕の痛みでつい動きが一瞬止まってしまう。
「そこよ」
ブスブス
「グハッ、ハァハァ」
腕や脚、腹などに切り傷が目立つが急所は外れており、致命傷には至ってない。
「もういい加減にアタシの物になったら?」
「ハァハァ、こ、断る」
聖剣エクスカリバーを杖にして立ってるのがやっとだ。少しでも意識を手放したら倒れる。辛うじて雷により筋肉を動かしてるだけだ。
「そんなボロボロで良く言えるわね。そんなところも益々欲しくなってしまうじゃない」
「……………」
どうにか間に合ったようだ。この技術を使うには、直接触るか関節的に触るしかない。
「ふっ、そうやって油断するから助かった」
「なによ、そう言ってもボロボロじゃない?」
そう言っていられるのは、もう少しだ。喰らえ、【磁気付与】。これを発動するのに時間掛かった。
「きゃぁぁ」
「ふぅ、成功だ」
「な、なによ!これぇ」
くノ一女は、いきなり地面に貼り付けられたようにうつ伏せとなり、指先から足先まで動けない。
「雷の聖剣タテノミカヅチの裏技術、本来の技術はこちらだ。相手や物体にN極とS極の磁気を与える。ただ、そのためには直接触れるか間接的に触れなければならないがな」
「触った覚えが……………はっ?!」
そう直接的には無理でも間接的に、つまりくノ一女が繰り出した影の刃を通して付与させて貰った。
ただ、この方法では時間が掛かり過ぎるのが難点だ。そのお陰で、ボロボロになってしまった。




