222食目、剣vs《隠者》その2
くノ一女に触れたはずの剣先が消えた?いや、消えたはずの剣先の感触はある。
「キャハハハ、自分の技術で死ねぇよ」
俺の影から消えたはずの剣先が出現し、俺の顔側面に向かって突き刺さろうとしていた。
このゼロ距離に等しいなら普通は防御・回避は間に合わない。それに不意打ちに近い事を挙げれば、まさに絶体絶命のピンチ。
だが、それにはならなかった。防御・回避するのではなく、影から飛び出した剣先自身が当たる寸前で霧散し、カズトが纏う黒雷に加わった。
「酷い事するね。自分の相棒を攻撃させようとするんだから。まぁ相棒が相棒を攻撃出来る訳ないよね」
「なにそれ?武器が意志を持ってる様に言っちゃってさ。それも何かの技術なんでしょ?」
「信じられないなら、それで良いよ」
直接意思疎通は出来ないけど、何となく聖剣エクスカリバーの気持ちが分かるというか、ぼんやりと頭の中に流れてくる。
まぁ聖武器を扱った者しか分からない感覚だ。『そうだそうだ』と、握ってる柄から掌へ侵入し脳へ意思が伝わってくる。
「エクスも怒ってるようだし、大人しく捕まえられてくれないかな?」
「はぁっ?意味分からない。そういえば、アタシのクルミちゃんを傷物にしたな。その報いを受けろぉぉぉぉ」
帯状の刃と化した影が襲い掛かって来る。今度は硬いし、応用が利き過ぎて面倒くさい。だが、遅い。
「まだまだ増やすよぉぉぉぉ」
影だから、無限増やせる。そう思ったら大間違い。魔法なら魔力が無くなれば、使えなくなる。なら、技術はどうだ。
技術は、精神力を使って使用する。だが、ほぼ全ての生物は無自覚である。使えば使う程に疲れ、使い過ぎると気絶する。そこは魔法と似ている。
「こんなものか」
「なによぉ」
確かに多いが手数ならこちらも負けてない。
「えっ?あれ、一体なに?」
カズトが纏ってる黒い雷が、黒い刃となって防いでいる。影と同等かそれ以上だ。
「どうした?まだまだ少ないぞ?」
「ぐっ、まだまだぁ」
影の刃だけではなく、いつの間にか手元に手裏剣らしき周囲がトゲトゲとした円盤を持っており、それを下方…………自分の影へ投げた。
カキンカキン
「これも防ぐか」
《隠者》の影を通してカズトの影から手裏剣が飛び出して来た。ニヤリと《隠者》が笑っていたが、悔しそうに地団駄を踏んでいる。
「二度同じ攻撃は通用しない」
一度目も通用しなかったけど、黒い雷が自動的に防御してくれるから不意打ちは意味をなさない。所謂、絶対防御というやつだ。
「次は、こっちから行くぞ」
カズトは避けるのではなく、ほぼ全て受け切りながら突っ込んでくる。その様子を見た《隠者》は一瞬後退するかと考えるが、それをするには攻撃を中断するしかない。
そうなると、一気に距離を詰められる。悪手しかならない。攻撃するも歩を進められ、攻撃を止めたら一瞬で詰められる。
前門の虎後門の狼状態で本来は撃つで無しだが、まだまだ隠し玉を持っている。
「来ないで!来ないでよ。このぉ【影大砲】」
《隠者》の意に反するが、影の魔力を一点集中させたエネルギー砲だ。本来なら、こんな近距離で使うものではない。
それに個人に使うには、オーバーキル過ぎるが、相手は勇者。これでも足りないくらいだ。
だって、ほらっ。明らかに耐えてる以上に、あっちも黒い雷を刃一刀に集中させ、たった切ろうとしてるんだもの。もう信じられない。
「大人しく、くたばりなさいよ」
「それは聞けない相談だ。お前こそ、大人しくルリ姉を返せ」
グサッ
エネルギー切れで、一気に距離を詰められ黒い刃は《隠者》の心臓を捉えていた。普通は、これで勝ったと思うだろう。
だが、心臓を穿かれたはずの《隠者》の口角がニヤリと上がり、黒っぽいくノ一衣装が益々黒く染まり《隠者》の身体全体ざ帯状へと変化し、カズトへと巻き付いていく。
「引っ掛かった。引っ掛かった。【影罠:結】これを抜け出せた奴は今までいないわよ」
別のところから声が聞こえる。俺が突いたのは偽物だったのか?いつの間にか入れ替わっていたみたいだ。簀巻きみたく拘束され、身動きが出来ないため声をする方向へ上手く向けないでいる。




