215食目、斧&槌vs《教皇》再びその4
「何の位大きくなろうかな?」
『?!』
直ぐに槌の勇者の正体が分かった。何故なら体が巨大化してるのだから。
こんな芸当出来るのは1種族しかいない。
『巨人族!』
龍人族とは別の意味で注意すべき種族だ。こいつなら腕力だけでもヘル・ワームを楽々と引き千切れる。
何処まで大きくなると言うのだ。ヘル・ワームと比べて対比率5倍はある。ヘル・ワームはドラゴンの天敵であるはずなのに、巨大化した槌の勇者にビビってしまっている。
「相変わらず手加減が難しいのよ。大きくなり過ぎた」
『おい、殺るんだ』
『ぎゃぉぉぉぉぉ』
《教皇》の命令に背けられないヘル・ワームはサクラの足元に噛みつくが、まるでペットに犬のように甘噛みしてる風に見えてしまう。
「それが精一杯なの?卑怯かもしれないけどね。ショウを助けるためなんだ、悪いわね」
ヒョイッとヘル・ワームを摘み上げ、ロープを引き千切るように難なくブチンと千切れた。
ドバドバと体液が出る中、コロコロと転がり出る球体の何かが地面を転がる。
「ぷはぁ、サクラ助かった」
「ショウ無事だったか」
球体の正体は、ショウが砂で固めて作ったボールであった。その中に入り、どうにかヘル・ワーム内で生き延びていた。
「ハァハァ、これで形勢逆転だな」
『くそぉ、まだ…………まだだ』
往生際が悪く、更にもう一本懐から取り出した自らを魔物と化した薬剤の注射器を打ち込む。
結果は見ての通り身体中が肥大化し、巨人化になってるサクラと同等までの大きさへと変貌している。
『グッハハハハ、これで負けはせぬ』
だが、直ぐに《教皇》に異変が起きる。歩を進めるどころか、頭から指先まで1mmも動けずにいるように端から見える。
『な、なんだ?!動けぬではないか!』
「身体を大き過ぎるんですわね」
『何をいう、きさまだって大きいではないか!』
《教皇》は1つだけ思い違いをしていた。それは、この世界で単純な事で切り離せない事実。
「私の巨大化種族の技術よ。薬や他の魔物を取り込んだだけでは真似出来ないわ」
『さ、最初は上手く行ってたぞ』
「まだ許容範囲だったからじゃない?ほら、今にでも身体が崩れそうじゃない」
サクラの指摘通りに魔物化した《教皇》の肉体が、ボロッと崩れて行くのが目に取れて分かる。
『こんなはずでは!』
「行き過ぎた力は自滅をするものです」
「呆気ない最後だったな」
チリのように崩れ去る身体の残り滓のように残ったのは、魔物化する前の《教皇》より幾分か若くしたような子供だった。
「くっ、我が負けるなんぞ、あってはならぬ」
「これはどういう事?」
「俺に聞くな」
巨人化から戻ったサクラは、ショウの隣に行くと信じられない光景を見るや聞いてみた。
薬の効果が切れたのか?それとも一定のダメージを与えたからか?それか薬を2回使ったからか?ショウとサクラが考えても答えは出ないが、これは捕まえるチャンスである。
「《教皇》ざまぁないね」
「「「?!」」」
子供化した《教皇》を捕まえようとした瞬間、あらぬ方向から声が聞こえて来た。
後ろ?いや、右か左?違う、上でもない。そうすると、残りは下?もしかしなくても、下側…………地面から聞こえたような気がする。
「こ、この声は《隠者》!貴様か」
「困ってるようだから助けに来てあげたのよ」
ヌルリと《教皇》の影から人影が這い出て来る。くノ一みたいな格好をした女だ。
「また新しい敵」
「クッワハハハハ、これで牽制逆転だな」
「何を言ってるのよ。アタシ戦う気なんて更々ないわよ」
「なら、何で来た!」
おかしい。くノ一姿の女からは殺気が微塵も感じられない。
「だから、言ったでしょ。あんたを助けに来たって。最初から見てたんだから」
「なーに?!ちょっ、離せ」
「それじゃぁ、勇者のお二人さんバイバイ。さようなら」
「待て」
くノ一姿の女が《教皇》の襟首を掴むと、影が底なし沼のように沈むように、その場から消え失せた。
さっきまで二人がいたところに駆け付けるも、もうそこには何も無かった。地面に触るも沈まないのであった。




